岐阜新聞 映画部

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絶対的権力者のターが、失墜していく様子を描いた映画

2023年07月03日

TAR/ター

© 2022 FOCUS FEATURES LLC.

【出演】ケイト・ブランシェット、ニーナ・ホス、マーク・ストロング、ジュリアン・グローヴァ―
【監督・脚本】トッド・フィールド

キャンセルカルチャー、パワハラ、レズビアン

本作は、様々なテーマを内包した一筋縄ではいかない映画であり、まだ1回しか観てない私は半分も理解できてないだろう。しかしこの段階でも映画に魅了されたのは間違いないし、少なくともケイト・ブランシェットの怪演は存分に堪能できた。

本作の内容を簡単に言えば、ケイト演ずるベルリン・フィルの首席指揮者で絶対的権力者のリディア・ターが、自身の権力を笠に着た横暴なふるまいから次第に人心が離れていき、失墜していく様子を描いた映画だ。

しかし本作は、権力者の自業自得を楽しみ最後は溜飲が下がるというような痛快娯楽映画ではない。トッド・フィールド監督は、半端な答えなど用意してない。

テーマは、キャンセルカルチャー(著名人や企業などの発言や行動をSNSなどで糾弾し、社会から排除しようとする動き)、SNSによる一方的なバッシングやフェイク動画の拡散、権力者によるパワハラ、LGBTQなど多岐にわたり、またそれぞれが有機的に結びついている。

例えば、ターが教える指揮科の有色人種の男子学生が「バッハは、白人で女性差別的なので好まない」と言うと、ターは「芸術と本人の志向性は分離せよ」と徹底的に論破し、彼を教室から立ち去らせてしまうという横暴。ターはレズビアンでその性自認に一切の問題はないが、彼女のパワハラが許される権力構造は指弾されるべき問題だ。

長年の功労者である副指揮者を「音楽性の違い」を理由に切り捨て、自分のアシスタントをそこに据えようとする傲慢さも同様だ。

マーラーの第5番のライブ録音を目指してきたターが、ベルリン・フィルを解雇されて東南アジアで見つけた仕事が、コスプレを着た観客を前にしてのゲーム音楽の指揮。でもなんだか嬉しくなってくる。

通常本編終了後に延々と流れるエンドクレジットが、映画の最初に流れるのにはビックリしたが、映画を最後まで見せる逆転の発想で面白い。奥行きのある映画だ。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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