岐阜新聞 映画部

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イランで実際に起きた事件に着想を得た秀作

2023年06月27日

聖地には蜘蛛が巣を張る

©Profile Pictures / One Two Films

【出演】メフディ・バジェスタニ、ザーラ・アミール・エブラヒミ
【監督】アリ・アッバシ

カンヌ映画祭女優賞受賞のクライムサスペンス

イラン出身のアリ・アッバシ監督の「聖地には蜘蛛が巣を張る」は、イランの聖地マシュハドで、2000年から2001年にかけて実際に起きた娼婦連続殺人事件に着想を得たクライムサスペンスの秀作。

聖地の浄化の名の下に娼婦を殺害する連続殺人犯のサイードと、事件を追うためテヘランからやってきた女性ジャーナリストであるラヒミの行動を交互に描きながら、娼婦をしないと生きていけない貧しい女性たちの実態や、男尊女卑・女性蔑視の社会風土をあぶり出してみせる。

連続殺人犯のサイードは、日常生活に於いては良き夫であり子煩悩な父親である。特殊な異常者でない一般庶民の犯行というのが恐ろしい。

事件を取材するラヒミが遭遇する数々の女性蔑視の風習にも驚かされる。

ラヒミが自分をおとりに犯人をおびき寄せる体を張ったスリリングな逮捕劇も見応えがあるが、その後の裁判でサイードが自身の犯行を正当化する発言や、娼婦の殺害を善行として称えるたくさんの支持者の存在に戦慄させられる。

サイード役のメフディ・バジェスタニ、ラヒミ役のザーラ・アミール・エブラヒミは、共に難しい役柄を好演し作品を支えている。

「ボーダー 二つの世界」でカンヌ国際映画祭・ある視点部門グランプリを受賞したアリ・アッバシ監督は、イラン在住時に起きた事件の犯人を一部の市民や保守派メディアが擁護し英雄として称えるのを見て映画化を決意したらしい。

「聖地には蜘蛛が巣を張る」は、世界49以上の映画祭を席巻し、デンマークのアカデミー賞ロバート賞で11部門を制覇。さらに、ザーラ・アミール・エブラヒミは2022年・第75回カンヌ国際映画祭に於いて女優賞を受賞した。

語り手:井上 章

映画鑑賞歴44年。出来る限り映画館で観ることをモットーとし、日本映画も外国映画も、新作も旧作も、ジャンルを問わず観てきたおかげか、2006年に、最初の映画検定1級の試験に最高点で合格しました。

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語り手:井上 章

映画鑑賞歴44年。出来る限り映画館で観ることをモットーとし、日本映画も外国映画も、新作も旧作も、ジャンルを問わず観てきたおかげか、2006年に、最初の映画検定1級の試験に最高点で合格しました。

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