岐阜新聞 映画部

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宮沢賢治世界のはじまりの物語

2023年06月15日

銀河鉄道の父

©2022「銀河鉄道の父」製作委員会

【出演】役所広司/菅田将暉、森七菜、豊田裕大/坂井真紀/田中泯
【監督】成島出

自由は家族の愛に支えられ伝説はわが子を信じた父から生まれた

宮沢賢治にはいくつもの伝説のようなものが存在する。

宮沢賢治は明治29(1896)年、岩手県花巻に生まれ、昭和8(1933)年に花巻で37歳で亡くなっている。生前に刊行された作品は、唯一の詩集「春と修羅」と、童話集「注文の多い料理店」の2作のみ。他に、雑誌や新聞に投稿、寄稿した作品が数点、確認されているが、賢治は作家として認知されてはいなかった。

しかし、一部には、賢治の作品に注目する論評があり、無名に近い作家であったのにもかかわらず、最初の全集が出版されたのは、亡くなった翌年の昭和9(34)年のことだった。

その3巻本の全集が完結したのは昭和10(35)年で、版元は東京の文圃堂書店、奥付に記載された編輯者に、高村光太郎と草野心平の名前があった。 東北岩手花巻の無名に近い作家が、次第にその名前を広めていく。昭和14年(39)年には、文圃堂の版を受け継いだ、十字屋書店から、6巻別巻1の新たな全集が刊行されている。

昭和15(40)年、賢治の短編小説「風の又三郎」が島耕二監督により日活で映画化された。これが初の映画化作品で、宮沢賢治の名前は既に全国区になったことの証だが、十字屋書店版の全集が完結したのは昭和19(44)年になってからのことだった。

『銀河鉄道の父』は門井慶喜の直木賞受賞の同名小説の映画化で、宮沢賢治の父・政次郎(役所広司)の視点から、唯一無二の作家誕生の過程が描かれている。

質屋の長男として家業を継ぐ立場でありながら、自由奔放にゴーイングマイウェイの賢治(菅田将暉)は、すでに伝説の如くに君臨している。

息子の暴走を親の威厳を維持しようとしながらも、遂には甘やかしてしまうという親子関係が面白く、ふたりの掛け合いによる問答は出色。

病に倒れる妹・トシ(森七菜)との深い絆を含め、宮沢賢治誕生が家族の愛のもとにあったことがわかる。伝説のはじまりにこの父あり。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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