岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

黒澤明の名作「生きる」の見事なリメイク

2023年06月01日

生きる LIVING

©Number 9 Films Living Limited

【出演】ビル・ナイ、エイミー・ルー・ウッド、アレックス・シャープ、トム・バーク
【監督】オリヴァー・ハーマナス
【発売情報】2023年8月16日(水)発売
・「生きる LIVING」Blu-ray 5,500円(税抜価格 5,000円)
・「生きる LIVING」DVD  4,400円(税抜価格 4,000円)
【発売元・販売元】東宝

作品を支えるビル・ナイの味わい深い演技

「生きる LIVING」は、黒澤明監督の名作「生きる」のリメイク。

生きがいは黒澤作品で何度も描かれる大きなテーマのひとつで、「生きる」は如何に生きるべきかを描いた黒澤明の代表作である。映像表現の厚みと卓越した語り口に圧倒される傑作であり、そのリメイクは無謀な挑戦としか思えなかった。

しかし、1953年のイギリスに舞台を移したノーベル賞作家カズオ・イシグロの脚色は、オリジナルの黒澤作品へのリスペクトが感じられる素晴らしい出来栄えで、黒澤版「生きる」より上映時間が40分も短い103分なのにダイジェストっぽさなど微塵もない。カラー作品だが、画面サイズはオリジナル同様のスタンダード。

「生きる LIVING」は、黒澤明監督の「生きる」を超えてはいないものの、名作のリメイクとしては最高の部類に入る作品。小津安二郎の作品が好きなカズオ・イシグロは、小津監督が笠智衆主演で撮った「生きる」をイメージして書いたらしい。なるほど、確かにそんなテイストの作品に仕上がっている。そしてテイストこそ違えど、オリジナルのメッセージはストレートに伝わる作品になっているのが素晴らしい。

「生きる LIVING」の成功の要因として、忘れてはならないのが主演のビル・ナイの紳士然とした佇まいと演技だ。役所勤めのルーティンに埋没し、ゾンビとあだ名をつけられるほど生きるしかばね化していた主人公が、癌と告知され余命宣告を受けて動揺し、やがて生きる意味を見出すまでを味わい深く演じて作品を支えている。

なお「生きる」では志村喬が歌う「ゴンドラの唄」が印象的だったが、「生きる LIVING」でビル・ナイが歌うスコットランド民謡「ナナカマドの木」も心に残る。

監督は南アフリカ人のオリヴァー・ハーマナス。

語り手:井上 章

映画鑑賞歴44年。出来る限り映画館で観ることをモットーとし、日本映画も外国映画も、新作も旧作も、ジャンルを問わず観てきたおかげか、2006年に、最初の映画検定1級の試験に最高点で合格しました。

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語り手:井上 章

映画鑑賞歴44年。出来る限り映画館で観ることをモットーとし、日本映画も外国映画も、新作も旧作も、ジャンルを問わず観てきたおかげか、2006年に、最初の映画検定1級の試験に最高点で合格しました。

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