岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

寡黙で穏やかな英国紳士が主役の『生きる』

2023年06月01日

生きる LIVING

©Number 9 Films Living Limited

【出演】ビル・ナイ、エイミー・ルー・ウッド、アレックス・シャープ、トム・バーク
【監督】オリヴァー・ハーマナス
【発売情報】2023年8月16日(水)発売
・「生きる LIVING」Blu-ray 5,500円(税抜価格 5,000円)
・「生きる LIVING」DVD  4,400円(税抜価格 4,000円)
【発売元・販売元】東宝

自分の人生をどう生きるか?

2017年にノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロさん(1954-)は、大の映画好きだそうだ。幼少時に日本を離れた彼は、日本文化では、小津安二郎や成瀬巳喜男の映画に影響を受けたことを認めている。

本作は、黒澤明監督の『生きる』(1952)を、イシグロさんが自ら脚色したリメイク作品だ。

『生きる』のテーマを「人生の展望、大事なものとは何か、自分の人生をどう生きるか」と分析するイシグロさんは、脚色するにあたり、「志村喬さんが演じる、喜怒哀楽をはっきりと出す表情豊かな主人公を、小津安二郎監督の作品で常に穏やかな微笑みを浮かべる笠智衆さんのような俳優が演じたらどうなっていただろう」と考えたとのこと。

そこで主人公のミスター・ウィリアムズに配役されたのがビル・ナイさん。「寡黙で穏やかな英国紳士」というキャラクターがあってこそ、小津安二郎調の『生きる LIVING』になったのだ。ビル・ナイさんは自身初めてアカデミー賞主演男優賞にノミネートされた。

物語の骨子は「公園の建設に奔走する主人公を見て、同僚たちは次第に心が動かされていくが、結局いつもと変わらない日常に戻ってしまう」で同じだが、本作では、主人公の思いを受け継いでくれるかもしれない新人の公務員ピーター(アレックス・シャープ)を配置したことで、将来に希望を持たせているし、若い世代との繋ぎ役も果たしている。

イシグロさんは、黒澤の戒めである「称賛されるために何かをすれば失望することになる。あくまで自分のためにやるべきだ」の姿勢を本作でも貫いている。決してヒーローでないのだ。

日本文化と英国文化の違いが垣間見られて面白いが、中でも際立っているのは、「私たちも見習って改革していこう」と気炎をあげる場面。日本人は通夜の席で酔っぱらった勢いで言うが、英国人は帰りの列車の中で議論の延長として言う。結果は同じだが日本人あるあるだ。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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