岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

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鯨の涙を想像させる、人間の生き様を鋭く見つめた傑作

2023年05月30日

ザ・ホエール

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【出演】ブレンダン・フレイザー、セイディー・シンク、ホン・チャウ、タイ・シンプキンス、サマンサ・モートン
【監督】ダーレン・アロノフスキー

ブレンダン・フレイザー、見事な復活劇

2023年の米国アカデミー賞主演男・女優賞は、一旦はスターに輝いたものの様々な理由で映画界から遠ざかっていたベテラン2人が受賞した。

『エブエブ』で主演女優賞を受賞したミシェル・ヨーは、アメリカでも大ヒットした『グリーン・ディスティニー』の主演で注目されたが、その後はアジア人ということで主役のオファーは無く、脇役としても出演作が限られていた。

『ザ・ホエール』で主演男優賞を受賞したブレンダン・フレイザーは、ゴールデン・グローブ賞を主宰するハリウッド外国人記者協会の会長からセクハラを受けるなどしてうつ状態となり、第一線から遠ざかっていた。この2人は『ハムナプトラ3 呪われた皇帝の秘宝』(2008)で共演しており、見事な復活劇である。

『ハムナプトラ』シリーズ(1999-2008)で探検隊長を演じ、肉体派で爽やかなイメージのあったブレンダン・フレイザー。久しぶりの主役をはった彼の役は、体重272キロの孤独な男チャーリー。元大関の小錦(284キロ)並みの巨漢である。小錦と違うのはほとんど動けないところ。大学の英語(国語)の講座も、今の姿をバレたくないのか、ビデオオフのオンライン授業でやっているのだ。

チャーリーが死を覚悟の過食症になったのは、妻子を捨てて愛する男の元に駆け落ちしたが、その恋男が自殺してしまったからだ。

映画はチャーリーの家から一歩も出ないワンシチュエーションの設定。共演する俳優たちは、いずれも優れた演技で映画の質を高めている。なかでも、彼の恋男の妹で、厳しい言葉は言うものの献身的に看護するリズ役のホン・チャウは素晴らしい。惜しくもアカデミー賞助演女優賞は逸したが、チャーリーが唯一心を許す親友役として複雑な感情を巧みに演じ、映画を力強く支えている。

LGBTQを背景に、家族との共感を夢想しつつ、人間の生き様を鋭く見つめた傑作。鯨の涙を想像させる映画だ。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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