岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

息子との向き合い方を問い直す、勉強になる映画

2023年05月22日

The Son/息子

© THE SON FILMS LIMITED AND CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION 2022 ALL RIGHTS RESERVED.

【出演】ヒュー・ジャックマン、ローラ・ダーン、ヴァネッサ・カービー、ゼン・マクグラス、アンソニー・ホプキンス
【監督・脚本・原作戯曲・製作】フロリアン・ゼレール

「うつ病は心の風邪」なんかじゃない

日本では2000年頃から、「うつ病は心の風邪」という言われ方が広まった。これは新しい抗うつ剤を販売する薬品メーカーのキャッチコピーで、それまでは「ココロが弱い人がなる病気」とか「気の持ちよう」などと言われ、精神科に通うのは「恥ずかしいこと」とされていたが、芸能人のカミングアウトもありうつ病が一般的に認知され、精神科に通う敷居が低くなって来たことは確かだ。

しかしうつ病が「心の風邪」というのは、「1、2週間で治る」という誤解も生んでしまった。私の現職は精神障害者の方の就労支援だが、そんな簡単な方は一人もいない!苦しんで苦しんでやっと社会復帰しようかという方に「うつ病は心の風邪」なんていうのは理解が無さ過ぎるのだ。

本作を観ていて、日々の支援の参考になったのは、主人公の17歳の少年ニコラス(ゼン・マクグラス)に対する、同居する父ピーター(ヒュー・ジャックマン)と離婚後再婚した実母ケイト(ローラ・ダーン)の対応だ。

ニコラスが幼い頃に離婚したこともあって、二人は彼が精神的に病んでしまったのは、自分たちのせいだと思っている。その負い目もあり、彼を自分たちの手で守ろう、あわよくば治そうとしている。寄り添うことは決して悪い事ではないが、ここに落とし穴がある。

精神障害の場合、自傷癖があったり希死念慮(自殺願望)のある方は、周りの親や支援者が「自分なら何とか出来る」「可哀そうだから本人のいう通りにしてあげる」と思わない方がいい。こうなったら専門家つまり医療に任せるべきなのだ。

本作の悲劇的結末に至る経緯は、教えられることが多い。局面局面でどう行動し何をすればよかったのか、何が正しかったのか本当に勉強になる。

  これを観て「両親が間違っている」と責めるのは間違っているし、本人の弱さで片付けるのは論外だ。答えを出すのではなく、次の悲劇を繰り返さないように考えましょうという映画だ。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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