岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

苦悩する漫画家を描いたコミックの実写映画化

2023年05月02日

零落

©2023浅野いにお・小学館/「零落」製作委員会

【出演】斎藤工、趣里、MEGUMI、山下リオ、土佐和成、永積崇、信江勇、宮﨑香蓮、玉城ティナ/安達祐実
【監督】竹中直人

目の前の壁が自作だと気づかない愚かさ

作家の幸福は締切に追われる時があること?

「サザエさん」の磯野家の隣人いささか(伊佐坂)先生は小説家で連載を持っている。家には担当編集者で波平の甥で、出版社勤めの波野ノリスケが原稿をもらいに足繁く通って来る。編集に尻を叩かれる、読者が待ち焦がれているというのは、作家冥利に尽きることで、言わば成功の証かも知れない。

『零落』の主人公・深澤薫(斎藤工)は、かつては売れっ子の漫画家だった。

8年間連載を続けた「サンセット」の完結パーティーの席。周りから「お疲れさまでした」と、上べは綺麗な感謝の言葉がかけられるが、本当のところは打切りという厳しい現実がある。場に水をさすのは主役の漫画家先生。

原作は「ソラニン」で知られる浅野いにおの同名コミックで、漫画家の創作者としての業を自虐的に描いている。

深澤のやさぐれ感、ダメ男ぶりは一貫している。

すれ違いが日常の妻のぞみ(MEGUMI)との関係は、互いが相手を意識しなくなった平行線の位置関係。無関心が向かう先は飼い猫への偏愛。

元アシスタントや仕事つながりの女性の描き方ひとつひとつにも、深澤の偏執性、自己に完結させる独善性が現れる。矛盾だらけの壁の築き方は一方的。

一方、風俗嬢との関係には特異性があらわれる。大袈裟に言えば、現世から離れた浮世だからこそ得られる安らぎだったりするか?その危うさは、猫目の風俗嬢ちふゆ=ユイ(趣里)との関係でより顕著化する。

"売れるか売れないか"に一喜一憂することを嫌う、表現者の苦悩はわからないでもないが、同意は限定される。

脚本は演劇畑の倉持裕が担当。会話の見せ方、切り取り方に演劇的な雰囲気が濃厚な瞬間があり、面白い効果を生み出している。

監督は竹中直人。役者を信頼した落ち着いた演出に、映像作家としてのこだわりを挿入することも忘れていない。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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