岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

創作者の生みの苦しみを味わい深く描く佳作

2023年05月02日

零落

©2023浅野いにお・小学館/「零落」製作委員会

【出演】斎藤工、趣里、MEGUMI、山下リオ、土佐和成、永積崇、信江勇、宮﨑香蓮、玉城ティナ/安達祐実
【監督】竹中直人

女優の魅力を引き出すのも上手い竹中直人監督

個性派俳優、コメディアン、エッセイスト等、多方面で活躍する竹中直人は映画監督としても際立ったセンスを発揮し、これまでも優れた作品を発表してきた。

映画ファンだった高校生の頃から8ミリ映画を撮っていた彼は、多摩美術大学グラフィックデザイン科在学中は8ミリ映画製作に没頭していたらしい。

やがてコメディアンとして人気を博し、俳優としても活躍した後、1991年につげ義春原作の「無能の人」で念願の監督デビュー。味わい深い画面設計とユーモラスな人間描写が高い評価を受け、キネマ旬報ベストテンの第4位に選出された。

1994年の監督第二作「119」は、火事がまったく起きていない田舎町の消防隊員のゆったりとした豊かな日常をほのぼのと描いた傑作で、私の一番好きな竹中直人監督作品。消防隊員のマドンナを演じた鈴木京香の品のある美しさが絶品で、出演俳優のアンサンブル演技も素晴らしかった。キネマ旬報ベストテンでも第6位に選出されている。

その後も「東京日和」、「連弾」等の秀作を発表した竹中直人の監督第10作目の最新作は、漫画家・浅野いにおの「零落」の映画化。

「零落」は8年間の連載が終了した漫画家・深澤薫の、自堕落で鬱屈した空虚な日常を描いた作品で、彼の創作者としての生みの苦しみを、斎藤工の内面演技と心象風景により巧みに描いている。

竹中直人監督は女優の魅力を引き出すのも上手く、「零落」でも猫のような目をした風俗嬢・ちふゆを演じた趣里が、これまでのどの作品よりも魅力的であった。

また、MEGUMIが演じる敏腕漫画編集者である深澤の妻・町田のぞみに当たり散らす場面や、山下リオ演じるアシスタント・富田と本音をぶつけ合う醜態もリアルで引き込まれる。

語り手:井上 章

映画鑑賞歴44年。出来る限り映画館で観ることをモットーとし、日本映画も外国映画も、新作も旧作も、ジャンルを問わず観てきたおかげか、2006年に、最初の映画検定1級の試験に最高点で合格しました。

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語り手:井上 章

映画鑑賞歴44年。出来る限り映画館で観ることをモットーとし、日本映画も外国映画も、新作も旧作も、ジャンルを問わず観てきたおかげか、2006年に、最初の映画検定1級の試験に最高点で合格しました。

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