岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

人生の悲しさや生きづらさがあぶりだされるミステリー

2023年05月02日

メグレと若い女の死

©2021 CINÉ-@ F COMME FILM SND SCOPE PICTURES.

【出演】ジェラール・ドパルデュー、ジャド・ラベスト、メラニー・ベルニエ、オーロール・クレマン、アンドレ・ウィルム
【監督】パトリス・ルコント

人間の生き様の方がミステリアス

「メグレシリーズ」の探偵小説作家ジョルジュ・シムノン(1903-1989)の作品は、戦前から日本語に訳され高い評価を受けてきた。ロシア文学と共にミステリ愛好家でもあった黒澤明監督が、「シムノンばりの犯罪映画を作ろう」として企画したのが『野良犬』(1949)(日本映画に刑事もののジャンルを確立した傑作)であるように、映画とは親和性の高い作風でもある。

怪盗ルパンと共に、フレンチミステリが生んだ2大キャラクター・メグレ警部が主役の『メグレと若い女の死』は、パトリス・ルコント風にアレンジされた気負いのない小品だ。

映画の冒頭、血に染まった真っ白なウェディングドレスを身にまとった若い女の死体という強烈な画面で始まる。ミステリ映画としての"掴みはOK"なのだ。

しかし犯人探しが主眼かというとそうではない。謎解きよりも、年老いたメグレ(ジェラール・ドパルデュー・74歳)の終活に向かった境遇と、パリの社交界の片隅で生きる若い女の孤独を、フィルムノワール風に描いている。

いつもの酒脱で明るい画調のルコント作品と違い、寒色がベースで霞がかかったような落ち着いたトーン。メグレと被害者の面影漂うベティ(ジェイド・ラベステ・27歳)の淡い恋心のようなものはあるが、テーマはそこにはない。

捜査をしていく中で浮かぶ上がってきた「被害者は誰なのか?」「いままでどんな人生を歩んできたのか?」に焦点はあてられる。そこからは現代社会の抱える闇や人生の悲しさ・生きづらさがあぶりだされてくる。

映画のポスターは巨体のメグレ(ドパルデュー・体重100キロ)のパイプをふかしたシルエットで、あたかもヒッチコック映画のようだがそうではない。謎解きや犯人探しを期待すると肩透かしをくらうかもしれない。退屈だと感じるかもしれない。

でも人間の生き様の方がミステリアスなのだ。ルコント監督の批評的精神は変わらない。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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