岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

トランスジェンダーを象徴するメタファーとしての「水」

2018年04月03日

ナチュラルウーマン

©2017 ASESORIAS Y PRODUCCIONES FABULA LIMITADA; PARTICIPANT PANAMERICA, LCC; KOMPLIZEN FILM GMBH; SETEMBRO CINE, SLU; AND LELIO Y MAZA LIMITADA

【出演】ダニエラ・ヴェガ、フランシスコ・レジェス、ルイス・ニェッコ
【監督・脚本】セバスティアン・レリオ

チリ映画界の俊英による巧みな映像表現

 家族も社会的地位もあるオルランド(フランシスコ・レジェス)が、たまたま最後に惚れた女はトレンスジェンダーだった!人間が人を愛し肉体行為によってオーガズムを得られる幸福感は、生殖行為による種の保存とは別のものである。故に対象の相手が男性の肉体を持っていたとしても、異性として愛しているのだ。イヤすでに異性か同性かなどと考えている時点で偏見を持っているのかもしれない、と思わせる映画であった。
 映画の冒頭は、イグアスの滝の砕け散る水しぶきと獰猛な流れを映し出す。物語が始まると、サウナや噴水、洗車場など至る所で水に関係するシーンが出てくる。アルゼンチンとブラジル「2国にまたがる」この滝や、境目のない水の表現は、トランスジェンダーを象徴するメタファーとして問いかけている。
 そのイグアスの滝へオルランドと行くことができなかった、トランスジェンダーのマリーナ(ダニエラ・ヴェガ)は、おそらく初めて心を許した恋人の死に、哀しみはすれど我を忘れず、憎悪や苦難や屈辱に対してひるむことなく相手を真正面から見つめ、立ち向かう。隠しておきたい、無かった事にしたいオルランドの家族からの拒否反応にめげず、彼女は常に前を向いていて生きる勇気を我々に与えてくれる。自身もトランスジェンダーであるダニエラ・ヴェガの抑制の効いた演技は、確実に見ているこちらの心に響いてくる。
 映画の素晴らしさはテーマやストーリーだけではない。チリ映画界の俊英セバスティアン・レリオ監督の巧みな映像表現は、我々を十二分に堪能させてくれる。中でもバスター・キートンの映画のような、マリーナが向かい風の中を前傾姿勢で立っているショットは逆境に立ち向かう彼女への応援であるし、股の間に置いた鏡に写る自分自身の顔は、性器の有無でなく、アイデンティティが重要なのだと語ってくれる。今年度アカデミー賞外国語映画賞受賞作。勇気がもらえる映画です。

『ナチュラルウーマン』は全国で公開中。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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