岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

ホームドラマに託した映画の魔力

2023年03月29日

フェイブルマンズ

©2022 Universal Pictures. ALL RIGHTS RESERVED.

【出演】ガブリエル・ラベル、ミシェル・ウィリアムズ、ポール・ダノ、セス・ローゲン、ジャド・ハーシュ
【監督】スティーヴン・スピルバーグ

すべての出来事には意味がある

例えば、『ニュー・シネマ・パラダイス』(ジュゼッペ・トルナトーレ監督/1988/日本公開89年)。

今は映画監督となった男が、少年時代に映画に魅せられるきっかけを与えてくれた、ひとりの映写技師との交流を回想する話。映画が娯楽の王様だった時代、田舎町の映画館の熱気を伝え、たっぷりの郷愁をエンニオ・モリコーネの美しい名曲が盛り上げる名作。

または、『8 1/2』(フェデリコ・フェリーニ監督/1963/日本公開65年)。

新作の構想で苦悩する映画監督の話。映像は監督の脳内に入り込み、幻想と現実の間を行き来する。悪く言えば自虐ネタ。ところがその苦悩を具現化して見せ、創造の過程すらも素晴らしい映像にしてしまうという小狡い傑作。

過去を振り返らなくても、最近、映画、あるいは映画館を題材にした作品の公開が続いている。連鎖反応というわけでなく偶然なのだろうが、外国映画にも日本映画にもあるから、これが結構目立っている。

そして、「スピルバーグ、あんたもか!」というのが、『フェイブルマンズ』だった。

幼きサミー・フェイブルマンは、両親に連れられて映画見物に出かける。列に並んだ親は作品の選択で意見を交わしている。「感性の強い子だから、刺激が強すぎないかな?」

スクリーンに映し出されるのは『地上最大のショウ』(セシル・B・デミル監督/1952/日本公開53年)。クライマックスの列車強盗を引き金に発生する大事故…呆然とスクリーンに釘づけとなるサミー少年。怯むどころか彼は直ぐにそのシーンの再現を試みる。

それは、本物を目指す『リバティ・バランスを撃った男』(ジョン・フォード監督/1962年)の模倣によって進化する。与えて貰った "玩具" だった8ミリ映画は遊びの域を超える。

ここまでは想定した進行。のちに監督として大成するであろうサミーのサクセスストーリーは、フェイブルマン家のホームドラマに拡大して行く。 父・バート(ポール・ダノ)、母・ミッツィ(ミシェル・ウィリアムズ)の周辺で湧き立つ、大人の事情が絡んだほろ苦い話。サミーに降りかかる虐め、差別の話。その痛みに通じる根幹に映像=映画があること、映画が夢の贈物装置だけではないこと、ネガティブな魔力を明示したことは意味深い。

とは言え、スピルバーグ! 驚きのエピローグのあと、映画が輝く飛びっきりのラストシーンが用意されている。エンドロール後も暫く立ち上がれない、余韻に浸る傑作である。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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