岐阜新聞映画部映画館で見つけた作品ケイコ 目を澄ませて B! 聾者の女性を主人公にしたボクシング映画の新たな境地 2023年03月20日 ケイコ 目を澄ませて ©2022 映画「ケイコ 目を澄ませて」製作委員会/COMME DES CINÉMAS 【出演】岸井ゆきの、三浦誠己、松浦慎一郎、佐藤緋美、中原ナナ、足立智充、清水優、丈太郎、安光隆太郎、渡辺真起子、中村優子、中島ひろ子、仙道敦子/三浦友和 【監督】三宅唱 16ミリ撮影、無音の効果がそこにケイコの世界があることを実感させる 寺山修司が短歌、俳句に嵌ったのは中学生の頃だった。早熟の天才は、19歳までに膨大な歌や句を詠んだ。彼の書く独特の筆跡で、びっしりと埋め尽くされたノートの頁が目に浮かぶ。 歌人、俳人、小説家、演劇人、脚本家、映画監督、写真家、競馬評論家…寺山をひとつの肩書きにおさめる事は出来ない。あなたの本職はなんですか?」と問われー「ぼくの職業は寺山修司です」と答えたのは今や伝説となっている。 そんな寺山修司は、幼い頃に読んだボクシングの本の影響で、短歌や俳句に没頭していた中学生のある一時期、ボクシングジム通いをしていたことがあった。拳ひとつで闘うボクシングに強く惹かれ、本気でプロを目指したこともあった。しかし、高校2年の頃、厳しい食事制限に耐えられず頓挫した…。この逸話には少しの嘘が混じっているような気がする。ボクサーのストイックさを象徴する欲望のコントロール。その精神性のひとつを断念の理由にすることには矛盾がありはしないか? 誰が言ったか…"ボクシング映画にハズレなし" 小河ケイコ(岸井ゆきの)は、下町にあるボクシングジムに通い、プロとしてリングにも立つ。 筋トレ、縄跳び、シャドーボクシング、サンドバッグ打ち、孤独な鍛錬。そして、彼女は生まれつき聴覚障害があり両耳とも聴こえなかった。 ホテルの清掃員として働くケイコ。障害のあることは少なからず彼女の生き方を狭めてしまう。しかし、職場の仲間たちとのやり取りからうかがえるのは、過剰な気遣いのない優しさ。それは、ルームシェアをする弟の聖司(佐藤緋美)との関係性にも見える。人との付き合いを閉ざさない絶妙な距離感が心地良い。 ジムの会長(三浦友和)、トレーナーの林(三浦誠己)はケイコの覚悟を受け止め支える。もうひとりのトレーナー松本(松浦慎一郎)とのミット打ちは、無言の対峙として映画を象徴する。 ケイコが澄ませた視線の先には生きる証の決意が見える。勝利の達成感で終わらない継続の意味への問いかけが、静かな感動を呼ぶ映画だ。 語り手:覗き見猫映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。 100% 観たい! (14)検討する (0) 語り手:覗き見猫映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。 2024年09月06日 / 幸せのイタリアーノ 嘘からはじまるロマンチックコメディ 2024年09月06日 / 愛に乱暴 真面目に生きてきた女性が壊れる 2024年09月06日 / 愛に乱暴 人間の我慢の限界を描き、本質に迫った映画 more 2020年02月05日 / 福知山シネマ(京都府) 城下町にある映画館は幅広い年代から支持されている 2021年01月27日 / 上田映劇(長野県) 数多く映画のロケが行われた街に残る映画館 2018年06月06日 / シアターシエマ(佐賀県) 飲屋街にある閉館した映画館が意外な姿となって甦る more
16ミリ撮影、無音の効果がそこにケイコの世界があることを実感させる
寺山修司が短歌、俳句に嵌ったのは中学生の頃だった。早熟の天才は、19歳までに膨大な歌や句を詠んだ。彼の書く独特の筆跡で、びっしりと埋め尽くされたノートの頁が目に浮かぶ。
歌人、俳人、小説家、演劇人、脚本家、映画監督、写真家、競馬評論家…寺山をひとつの肩書きにおさめる事は出来ない。あなたの本職はなんですか?」と問われー「ぼくの職業は寺山修司です」と答えたのは今や伝説となっている。
そんな寺山修司は、幼い頃に読んだボクシングの本の影響で、短歌や俳句に没頭していた中学生のある一時期、ボクシングジム通いをしていたことがあった。拳ひとつで闘うボクシングに強く惹かれ、本気でプロを目指したこともあった。しかし、高校2年の頃、厳しい食事制限に耐えられず頓挫した…。この逸話には少しの嘘が混じっているような気がする。ボクサーのストイックさを象徴する欲望のコントロール。その精神性のひとつを断念の理由にすることには矛盾がありはしないか?
誰が言ったか…"ボクシング映画にハズレなし"
小河ケイコ(岸井ゆきの)は、下町にあるボクシングジムに通い、プロとしてリングにも立つ。
筋トレ、縄跳び、シャドーボクシング、サンドバッグ打ち、孤独な鍛錬。そして、彼女は生まれつき聴覚障害があり両耳とも聴こえなかった。
ホテルの清掃員として働くケイコ。障害のあることは少なからず彼女の生き方を狭めてしまう。しかし、職場の仲間たちとのやり取りからうかがえるのは、過剰な気遣いのない優しさ。それは、ルームシェアをする弟の聖司(佐藤緋美)との関係性にも見える。人との付き合いを閉ざさない絶妙な距離感が心地良い。
ジムの会長(三浦友和)、トレーナーの林(三浦誠己)はケイコの覚悟を受け止め支える。もうひとりのトレーナー松本(松浦慎一郎)とのミット打ちは、無言の対峙として映画を象徴する。
ケイコが澄ませた視線の先には生きる証の決意が見える。勝利の達成感で終わらない継続の意味への問いかけが、静かな感動を呼ぶ映画だ。
語り手:覗き見猫
映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。
語り手:覗き見猫
映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。