岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

踏み出せなかった一歩へ誘う再生の物語

2023年02月14日

とべない風船

©buzzCrow Inc.

【出演】東出昌大、三浦透子、小林薫、浅田美代子、原日出子、堀部圭亮、笠原秀幸、有香、中川晴樹、柿辰丸、根矢涼香、遠山雄、なかむらさち
【監督・脚本】宮川博至

癒しの地として選ばれた多島美の風景

雨、慟哭する男。悲劇のイメージ。

瀬戸内海に浮かぶ小島。連絡船に乗った凛子(三浦透子)はデッキに立ち、風景に目を向ける。

港の埠頭では繁三(小林薫)が娘の凛子を出迎える。父娘は視線を交わしはするが会話は少ない。何かしらのわだかまりを感じさせる、親子の細やかな緊張感。

漁港の事務所。漁の仕事を終えた男たちが普段のひと時の中にいる。ひとりの男。村田憲二(東出昌大)は愛想を欠く態度で、周りからも少し煙たがられてるいる。少し足を引き摺る様子が、男の過去にある影を暗示する。

『とべない風船』は、心に傷を負った、凛子と憲二に焦点を当てた再生の物語である。

2018年7月、瀬戸内地方を中心にした西日本一帯を襲った豪雨は、各地に災害の傷跡を残した。

本作の脚本、監督を手がけた宮川博至は、広島を拠点にテレビのCMディレクターとしてキャリアを積んでいる。自らの出身地である被災の地で、未だ癒えない人々の傷みに寄り添おうとして生まれた物語を、初の長編劇映画の題材に選んだことには、作り手の強い決意が見える。

凛子は繁三が暮らす家に着くが、そこが慣れ親しんだ生家ではないことがわかる。

母の遺影。その前ではじめて手を合わせる娘は、母親の死にも立ち会えなかった…その理由は徐々に明らかになるが、ここでの語り口が少々遠回しになのが気になる。

憲二は妻子を豪雨災害で亡くした。そこにある自責に苦しみ、世捨て人のように周囲に壁を作って生きている。腫れものに触るような気遣いを見せる周囲と、反対に強い言葉と態度で憲二に接する義父に挟まれ、前に進めない男の苦しみが浮かび上がる。

撮影は広島県呉市、江田島市周辺でオールロケで敢行された。大小の島々が瀬戸内海に浮かぶ風光明媚な地は "多島美(たとうび)" と呼ばれる。心の癒しを優しく見守る人々の交流の地。そこから誕生した優しく美しい映画である。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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