岐阜新聞 映画部

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本物の食材と本物の料理で作った本物の映画

2022年12月29日

土を喰らう十二ヵ月

©2022『土を喰らう十二ヵ月』製作委員会

【出演】沢田研二 松たか子 西田尚美 尾美としのり 瀧川鯉八/檀ふみ 火野正平 奈良岡朋子
【監督・脚本】中江裕司

一汁一菜の食事スタイル、この上ない贅沢?

「いただきます」「ごちそうさまでした」。日本の食事の作法として手を合わせながら言う言葉だ。食物の命を戴くことに感謝し、調達したり調理してくれた人や一緒に食べる人に感謝する挨拶で、100年位前から定着した諸外国には無い風習らしい。

『土を喰らう十二ヵ月』は、まさにこの言葉がピッタリ当てはまる食についての映画である。

畑を耕し食物を育て、四季折々の旬の野菜を必要な分だけ収穫し、真心を込めて調理したものを感謝をしながらいただく。一汁一菜の食のスタイルを基本に、季節によって変わる素材を味わう。一見質素なようだが、実はこの上ない贅沢なのではないか?

主演は沢田研二さん。人里離れた信州の一軒家で暮らす作家のツトムを演じている。ザ・タイガースの頃からのトップスターで、男の色気を感じるカッコよさは私の中で永遠の憧れだったが、本作ではありのままの74歳をさらけ出している。しかしこれがまたカッコいいのであって、自然体で気取らない歳の取り方には惚れ惚れするのだ。

映画は二十四節季の中の立春(2月4日頃)から冬至(12月21日頃)迄を、節季ごとに描いていく。この章立てが良い。

節季の呼称とその時に食するものが素敵で、例えば生き物が目覚める「啓蟄(けいちつ)」(3月5日頃)は、ほうれん草の胡麻だれかけ。生命が満ち満ちる「小満(しょうまん)」(5月21日頃)は、新たけのこ炊。穀物が実る「処暑(しょしょ)」(8月23日頃)は、胡麻豆腐という具合だ。

ツトムの食べっぷりもいいが、編集者で恋人の真知子(松たか子)の食いしん坊ぶりもいい。実に美味しそうにいただいているのだ。

ツトムの義母チエ(奈良岡朋子)の通夜振る舞いの食事もいい。私の地元でも、昔はお葬式が出ると近所の人が集まって食事を作ったものだ。日本の田舎コミュニティーの良き文化だった。

本物の食材と本物の料理で作った本物の映画である。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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