岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

愛と家族の物語。アルモドバル渾身の傑作。

2022年12月06日

パラレル・マザーズ

© Remotamente Films AIE & El Deseo DASLU

【出演】ペネロペ・クルス、ミレナ・スミット、イスラエル・エレハルデ、アイタナ・サンチェス=ギヨン、ロッシ・デ・パルマ、フリエタ・セラーノ
【監督・脚本】ペドロ・アルモドバル

家族愛と歴史認識。2つのテーマが密接にリンクする

1975年のフランコ総統の死去による独裁体制の崩壊後、抑圧から解放され自由な空気を享受した若者の運動が、音楽やファッション、映画等のパンク・ムーブメントへと繋がっていった。その中のパイオニア的存在のひとりがペドロ・アルモドバル監督である。

彼の作品は、民主化前には検閲で表現できなかった伝統的な家庭の問題、政治やカトリック教会に対する風刺や批判、同性愛などを果敢に扱い、多面的で挑戦的な内容となっている。

さらに特徴的なのは、登場人物の衣装や小物類、室内装飾に用いられる色彩である。赤や黄色などの原色が鮮やかに画面を彩り、人物の性格や置かれている立場等を副次的に表現している。

本作も、アルモドバル作品では常連の大女優ペネロペ・クルスが主演ということもあり、その作風はいささかもブレておらず堂々の風格である。

映画は、「赤ん坊の取り違え」と「スペイン内乱の犠牲者の遺骨収集」の2つのテーマが描かれる。この「血縁と家族の問題」と「歴史認識の問題」が、観ていた当初は別々のテーマがどう関連しているのか不思議に感じたが、事実を直視し問題から逃げない大切さと連綿とつながる命の重みだと気が付いたとき、アルモドバルの凄みがわかった。2つのテーマは密接にリンクしているのだ。

スペイン内戦(1936~1939)は、人民戦線政府とフランコ軍が戦った内戦で、ときに隣人同士や血縁同士も殺し合うことになった。十数万人が行方不明となったが、フランコ死去後でも、加担した人々の数の多さから、この時の殺し合いを法律で不問に付すことにしてしまった。

ジャニス(ペネロペ・クルス)の祖父もそれに巻き込まれ、彼女は収集した遺骨のDNA鑑定事業に取り組んでいるという設定だ。

祖父から繋がった命。赤ん坊の取り違えはジャニスに葛藤を呼ぶが彼女は真摯に解決する。2つのテーマが見事に繋がった瞬間だ。愛と家族の物語の傑作。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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