岐阜新聞映画部映画館で見つけた作品LOVE LIFE B! 映像表現の巧みさが光る深田晃司監督の新作 2022年11月21日 LOVE LIFE ©2022 映画「LOVE LIFE」製作委員会&COMME DES CINEMAS 【出演】木村文乃、永山絢斗、砂田アトム、山崎紘菜、嶋田鉄太、三戸なつめ/神野三鈴、田口トモロヲ 【監督・脚本】深田晃司 私なりの楽しみ方をつづってみた 本作の主人公妙子(木村文乃)は夫の二郎(永山絢斗)、息子の敬太(嶋田鉄太)の3人家族。妙子は再婚で二郎と敬太に血の繋がりはないことから義実家との関係性は必ずしも良好とはいえない。また二郎も同僚女性との婚約を直前に破棄して妙子と結婚している。冒頭ではそんなことから生じる問題を挟みながらもささやかな生活の様子が描かれる。しかし物語は急転直下、とある悲劇をきっかけに敬太の実父で韓国人のろう者であるパク(砂田アトム)や二郎の元婚約者の山崎(山崎紘菜)も加わってそれぞれの想いが別のベクトルへと向かい始める。 ストーリー自体は深田監督らしい鋭い人間観察に基づく毒のある展開が楽しいが、甘い箇所があるのもまた事実。なんの準備もしていないであろう妙子が急に海外に行ってしまうといった深田監督には珍しく無理な展開が多々見受けられる。 そんな脚本の甘さをかき消してしまうのが映像表現の巧みさだ。特に関係性を表した描写の数々は圧巻である。韓国手話でしか会話できないパクは妙子を必要とし、妙子もまた心の傷を埋めるかのようにパクの面倒をみる。手話という視覚情報でしか会話できない彼らは互いを見ることで会話が成り立っているにもかかわらず、最も大切な会話を鏡越しに交わす。しかも妙子は心も身体も裸で、パクは服を纏って。一方の二郎は人の目をみて会話のできない男だが、妙子は強引に目を合わせる。 そして白黒はっきりしない心や裏表のある心の象徴であるとともにそれぞれの関係性をも表すものとしてオセロが使われている。妙子が現在の関係性に固執し、変化を拒むかのように死守する永遠に再開しないプレイ途中の盤面、パクがシーツをかぶって表現する白、白い服の二郎、そして妙子に示されたラストの“あなたは白です”という一言。彼らがそのとき白なのか黒なのかによって示される今後の関係性は様々な解釈が可能である。また、鳥よけのために吊るされたCDの裏表とその反射光によってもたらされるシークエンスの面白さや鋭いカッティングによって生み出される事故シーンの怖さなど映像の面白さは尽きない。この映像の巧みさと解釈の自由さが本作最大の魅力である。 色んな楽しみ方ができる本作、脚本には少し不満があったため今回は私なりの楽しみ方をつづってみた。ぜひとも自分なりの楽しみ方で本作を体感してほしいと思う。深田晃司監督の映画はそれだけ奥が深いのだから。 語り手:天野 雄喜 中学2年の冬、昔のB級映画を観たことがきっかけで日本映画の虜となり、現在では24時間映画のことを考えながら過ごしています。今も日本映画鑑賞が主ですが外国映画も多少は鑑賞しています。 100% 観たい! (4)検討する (0) 語り手:天野 雄喜 中学2年の冬、昔のB級映画を観たことがきっかけで日本映画の虜となり、現在では24時間映画のことを考えながら過ごしています。今も日本映画鑑賞が主ですが外国映画も多少は鑑賞しています。 2024年09月26日 / どら平太 日本映画黄金時代を彷彿とさせる盛りだくさんの時代劇 2024年09月26日 / 潜水艦コマンダンテ 誇り高き決断 助けを求める人はもはや敵ではなく、ただの人間だ 2024年09月26日 / 潜水艦コマンダンテ 誇り高き決断 海の男たちが下す決断を描くヒューマンドラマ more 2020年08月05日 / 大津アレックスシネマ(滋賀県) 琵琶湖畔にある絶景をロビーから満喫できる映画館 2022年09月28日 / 宝塚シネピピア(兵庫県) かつて東洋一の撮影所があった街に復活した映画館。 2024年06月05日 / shimane cinema ONOZAWA(島根県) 山陰の地方都市に復活した街の小さな映画館。 more
私なりの楽しみ方をつづってみた
本作の主人公妙子(木村文乃)は夫の二郎(永山絢斗)、息子の敬太(嶋田鉄太)の3人家族。妙子は再婚で二郎と敬太に血の繋がりはないことから義実家との関係性は必ずしも良好とはいえない。また二郎も同僚女性との婚約を直前に破棄して妙子と結婚している。冒頭ではそんなことから生じる問題を挟みながらもささやかな生活の様子が描かれる。しかし物語は急転直下、とある悲劇をきっかけに敬太の実父で韓国人のろう者であるパク(砂田アトム)や二郎の元婚約者の山崎(山崎紘菜)も加わってそれぞれの想いが別のベクトルへと向かい始める。
ストーリー自体は深田監督らしい鋭い人間観察に基づく毒のある展開が楽しいが、甘い箇所があるのもまた事実。なんの準備もしていないであろう妙子が急に海外に行ってしまうといった深田監督には珍しく無理な展開が多々見受けられる。
そんな脚本の甘さをかき消してしまうのが映像表現の巧みさだ。特に関係性を表した描写の数々は圧巻である。韓国手話でしか会話できないパクは妙子を必要とし、妙子もまた心の傷を埋めるかのようにパクの面倒をみる。手話という視覚情報でしか会話できない彼らは互いを見ることで会話が成り立っているにもかかわらず、最も大切な会話を鏡越しに交わす。しかも妙子は心も身体も裸で、パクは服を纏って。一方の二郎は人の目をみて会話のできない男だが、妙子は強引に目を合わせる。
そして白黒はっきりしない心や裏表のある心の象徴であるとともにそれぞれの関係性をも表すものとしてオセロが使われている。妙子が現在の関係性に固執し、変化を拒むかのように死守する永遠に再開しないプレイ途中の盤面、パクがシーツをかぶって表現する白、白い服の二郎、そして妙子に示されたラストの“あなたは白です”という一言。彼らがそのとき白なのか黒なのかによって示される今後の関係性は様々な解釈が可能である。また、鳥よけのために吊るされたCDの裏表とその反射光によってもたらされるシークエンスの面白さや鋭いカッティングによって生み出される事故シーンの怖さなど映像の面白さは尽きない。この映像の巧みさと解釈の自由さが本作最大の魅力である。
色んな楽しみ方ができる本作、脚本には少し不満があったため今回は私なりの楽しみ方をつづってみた。ぜひとも自分なりの楽しみ方で本作を体感してほしいと思う。深田晃司監督の映画はそれだけ奥が深いのだから。
語り手:天野 雄喜
中学2年の冬、昔のB級映画を観たことがきっかけで日本映画の虜となり、現在では24時間映画のことを考えながら過ごしています。今も日本映画鑑賞が主ですが外国映画も多少は鑑賞しています。
語り手:天野 雄喜
中学2年の冬、昔のB級映画を観たことがきっかけで日本映画の虜となり、現在では24時間映画のことを考えながら過ごしています。今も日本映画鑑賞が主ですが外国映画も多少は鑑賞しています。