岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

喪失の後の時空を超える優しいファンタジー

2022年11月16日

秘密の森の、その向こう

© 2021 Lilies Films / France 3 Cinéma

【出演】ジョセフィーヌ・サンス、ガブリエル・サンス、ニナ・ミュリス、マルゴ・アバスカル
【監督・脚本】セリーヌ・シアマ

出会い触合うことで甦る記憶のかけら

森の中にある一軒家。そこは母の生まれた家。母の母がひとり暮らしていたが、その祖母は亡くなってしまった。

8歳のネリー(ジョセフィーヌ・サンス)は、家の片付けをするため、両親とその家にいる。何も変わっていない家で、唯一違っているのは、大好きな祖母がいないこと。いつの間にか母の姿が見えないことに気づく。

『秘密の森の、その向こう』は、8歳のネリーが体験する不思議な時間を描く、ファンタジーのような筋立てだが、そこには目眩く仕掛けがあるわけでなく、ごく普通の空間の中での体験、ネリーのまわりで起こる出来事として描かれる。

森の中に入ったネリーは、母が昔作ったと話してくれた秘密の小屋のある場所で、ひとりの少女(ガブリエル・サンス)に出会う。その女の子は、ネリーの母と同じ名前 "マリオン" と名乗る。そして、誘われてたどり着いた家は、祖母の暮らした家だった。

監督は『燃ゆる女の肖像』(2019/日本公開2020年)のフランスの女流セリーヌ・シアマ。ふたりの女性のまさしく燃えたぎるような情熱的な愛情劇を圧倒的な映像で描いたが、本作では子どもの目線で、あくまでも静かな世界観を創り出している。

撮影も引き続き、クレール・マトンが担当。森の中の木洩れ陽や、湖の水面に反射する光を繊細に拾い上げた映像が、不思議な世界との揺らぐ境界を見事に表現している。

ネリーと8歳の母マリオンを演じるのは、双子のサンス姉妹。その出会いから、まるでよく知った友だちのように溶けこみ遊ぶ姿は実に自然。それを切り取った演出の技も素晴らしい。

娘、母、祖母という3代に渡る物語に、重いわだかまりや確執があるわけではなく、時の流れの中にふと置きっぱなしにしてしまっていたものを見つける時間。帰って来た母、それを待っていた父の立ち位置も含め、ネリーが触れる時空の旅はあくまでも優しい。

観終わった後、ふと思い出す記憶のかけら…忘れていた何かが見つかるかも知れない。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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