岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

記憶が交差するとき、母へのわだかまりが消える

2022年11月07日

百花

Ⓒ2022「百花」製作委員会

【出演】菅田将暉、原田美枝子、長澤まさみ/北村有起哉、岡山天音、河合優実、長塚圭史、板谷由夏、神野三鈴/永瀬正敏
【監督】川村元気

薄れゆく記憶の中で母が言う「半分の花火」とは?

本作の主演の原田美枝子さんは、1958年12月生まれの63歳で私と同学年である。15歳の時、10代半ばの性の目覚めと戸惑いを描いた『恋は緑の風の中』(1974)のヒロイン役でデビュー。1976年、17歳で主演した『大地の子守歌』と『青春の殺人者』でその年の主演女優賞を総なめした。今もって世代ナンバーワンの女優である。

同時主演の菅田将暉さんは、1993年2月生まれの29歳。私の娘と息子の丁度中間の年齢だ。

世代的には私とピッタリの映画で、1979年3月生まれ43歳の川村元気監督が送り届けてくれた愛と記憶の物語である。

百合子(原田)と泉(菅田)は母一人子一人の家庭。何故父親が不在なのかは明らかにされない。泉が小学生の時、百合子は息子を残して約1年間、男の元に走っている。奔放で身勝手な母だ。

今の百合子は独立した生計で一人暮らしをしているが、次第に認知症になっていく。私と同い年なので、この設定は怖い。スーパーで同じものを何度も購入したり、無意識な行動が結果的に万引きと見なされるなど、自分では気が付いてないのだ。もし自分だったらと思うと背筋がゾッとする。

  映画のキーワードは、薄れゆく記憶の中で母が言う「半分の花火が見たい」だ。

半分認知症の88歳の私の母も、最近の記憶は毎日リセットされてしまうが、昔の記憶はよく覚えている。戦争時の記憶や、1945年の三河地震の記憶などリアルに喋ってくれる。

この映画の貫くテーマは"記憶"である。

母の記憶に鮮明に残っている「半分の花火」。でも息子の記憶には残ってない。記憶は記録ではなく、自分に都合のいいものだけを残した、或いは真反対の嫌な記憶だけがトラウマとして残る、都合のいい断片なのかもしれない。

記憶が交差し、泉が「半分の花火」の真相がわかったとき、泉から、どこかで許せなかった母へのわだかまりが消えたような気がするのだ。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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