岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

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迷いながら生きていく、寄る辺なき青春映画の傑作

2022年09月20日

冬薔薇(ふゆそうび)

©2022「冬薔薇(ふゆそうび)」FILM PARTNERS

【出演】伊藤健太郎、小林薫、余 貴美子、眞木蔵人、永山絢斗、毎熊克哉、坂東龍汰、河合優実、佐久本宝、和田光沙、笠松伴助、伊武雅刀、石橋蓮司
【脚本・監督】阪本順治

阪本映画の主人公はみんな凸凹人間だ

阪本順治監督は1958年生まれで私と同学年だ。大阪堺の出身で超進学校の三国丘高校から横浜国大に進んでいる。小学校時代から映画館によく通い8mmフィルムで撮影も始め、中学で映研、高校時代も映画を撮っていて、17歳のとき「映画監督になる」と決める。

大学は大島渚を見習って学生運動を経験した方がいいと勝手に思い込み、まだ運動が残っていた横浜国大に進学。すぐに自治会運動に参加しノンセクトで活躍。でもこれもすべて映画監督になるためだと宣言していたらしい。

当時は大手映画会社は日活を除いて新規の助監督を募集しておらず、映画監督になるなんて夢のまた夢。そんな中で阪本さんは石井聰亙監督などの現場に付いた後、31歳のとき『どついたるねん』(1989年)で衝撃のデビューをする。原宿でのテント上映から出発して口コミで評判は広がり、キネ旬ベストテン2位に選出。私は翌年3月シネマスコーレで観た。凄い監督が現れたものだと度肝を抜かれた。

その後は同学年監督としてずっと意識して観続けてきた。ベストテン入選11本(『顔』でベストワン)は同学年として誇らしい限りだ。

『冬薔薇』は29本目の監督作品。俳優の伊藤健太郎君に当て書きした作品だ。

淳(伊藤健太郎)は、服飾専門学校に在籍はしているがほとんど出席しておらず、まともに働いてもおらず、地元の不良仲間とも優柔不断に付き合っている。何もかもが中途半端なのだ。

不良仲間と距離をおいたり縁を切ってみせたり、服飾学校の友人にすり寄っていったり、自分の都合だけで動いていく。どこへ身を寄せるべきか、誰が信頼できるのか?カッコつけて強がっていても、絶望と孤独感がつきまとう。

淳は父に言う。「たまには何か俺にも言ってくんねえかな。死んじまえでもいいから」。心からの叫びだ。

阪本映画の主人公はみんな凸凹人間。迷いながら生きていく、寄る辺なき青春映画の傑作だ。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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