岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

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『PLAN 75』の世界は絵空事ではない。ディストピアだ。

2022年08月29日

PLAN 75

©2022『PLAN 75』製作委員会/Urban Factory/Fusee

【出演】倍賞千恵子、磯村勇斗、たかお鷹、河合優実、ステファニー・アリアン、大方斐紗子、串田和美
【監督・脚本】早川千絵

倍賞さんだけは、幸せな老後を送ってほしい

私の永遠のアイドルは倍賞千恵子さんである。小6の頃プレーヤーを買ってもらって初めてかけたのが、中学生の従弟のお兄さんから借りた倍賞さんの「さよならはダンスの後に」だった。

木下惠介アワー「幸福相談」(1972)では、山口百恵さんと共に中学生の私に色々な欲をときめかせてくれたが、高1の春に観た「寅さん大会」3本立てで確信した。「倍賞お姉さんがいちばん好きです!」

本作が私にずっしり刺さったのは、主演が倍賞さんだったことにつきる。お父さんが東京都電の運転士という庶民派で、SKDのトップスターから映画では期待通りの庶民派女優をリアルに演じ、さくらさんを始めとする明るく優しく前向きな役柄のイメージもあって、幸せな老後を送って欲しかったからだ。

そんな倍賞さんが「75歳からは自分で生き死にを決める制度」を使うなんて、さくらの息子・満男に「いったいどうなってるんだ?」と言いたい気分だ。「倍賞さん私がついてるからね。死ななくていいよ」。

75歳は後期高齢者であり、本年4月の年金制度の改正により老齢年金の繰り下げ年齢の上限となった。格差社会が広がる中でカツカツの老後生活を送らざるを得ない人は、これから益々増えていくであろうし、ましてや非正規雇用の増大で、若者の収入が減り年金の原資が減っていくことは容易に想像できる。

『PLAN 75』の世界は絵空事ではなく、人の価値を生産性だけで判断し役に立たない人間は保護する必要などなく、すべては自己責任だという風潮をディストピアとして描いているのだ。

若い2人(磯村勇斗/河合優実)が役所仕事として無自覚に老人の死に加担していく怖さ。慎ましやかに生きてきた孤独を抱える老人たちの希望の無さ。人間の尊厳を顧みない冷酷な世の中。

早川千絵監督は淡々と抑制のきいた演出で感情を高ぶらせることなく物語を紡いでいく。倍賞さんにまた一つ代表作が加わった。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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