岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

終戦後の生きるための闘いを描いた反戦映画

2022年08月15日

戦争と女の顔

© Non-Stop Production, LLC, 2019

【出演】ヴィクトリア・ミロシニチェンコ、ヴァシリサ・ペレリギナ、アンドレイ・ヴァイコフ、イーゴリ・シローコフ
【監督・脚本】カンテミール・バラーゴフ

見える戦いの後の風景と見えない心の傷

異音が聴こえる…それは女の息遣いだとわかる。洗濯物がぶら下がった、リネン室のような場所。白衣姿の女性たちが室内で働いている。息遣いの主は固まったまま動かない。まわりの女性たちはそれを気にかけることもない。「いつもの発作でしょ?」ひとりがつぶやく。

"のっぽ" とあだ名で呼ばれるイーヤ(ヴィクトリア・ミロシニチェンコ)は、傷痍軍人が収容された病院で看護師をしている。突然の発作は戦場で追った脳震盪による後遺症=PTSDだった。

時は1945年の第二次世界大戦終戦後の秋。場所はレニングラード(現・サンクトペテルブルク)。イーヤは共同住宅のようなアパートメントで、パーシュカという男の子を育てている。

ある日、突然の発作による事故で、パーシュカを死なせてしまう。

そこに戦友のマーシャ(ヴァシリサ・ペレリギナ)が帰還して来る。子どもの本当の親は彼女だった。その死を知ってもイーヤを強く責める素振りはなく、ふたりの間には友情だけでは計り知れない絆が存在していた。

原作は2015年にノーベル文学賞を受賞したスヴェトラーナ・アレクシエーヴィチのデビュー作「戦争は女の顔をしていない」。第二次世界大戦のドイツ、ソ連戦に従軍した500人を超える女性たちの聞き取りで構成されたノンフィクションである。本は完成後、2年間に渡り出版が許可されることはなく、ペレストロイカ後にようやく出版された。ソビエト連邦崩壊後、ベラルーシの大統領アレクサンドル・ルカシェンコは、祖国(これはソ連のこと)を中傷するものと非難し、ベラルーシでは発禁とした。アレクシエーヴィチはウクライナ生まれ、ルカシェンコは今も大統領として君臨し、親分に尻尾を振っている。そのことからも内容は察していただけるだろう。

戦場から戻った若き女性ふたりに突きつけられるのは、今を生き抜くための闘いに直面する新たな運命だった。

戦場の場面は一切登場しないが、戦争がもたらす無常を写し出し、反戦の意志を強く世に訴える、今、観るべき秀作である。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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