岐阜新聞映画部映画館で見つけた作品あなたの顔の前に B! 謎の女はホン・サンス映画の本領 2022年08月03日 あなたの顔の前に © 2021 Jeonwonsa Film Co. All Rights Reserved 【出演】イ・ヘヨン、チョ・ユニ、クォン・ヘヒョ、シン・ソクホ、キム・セビョク、ハ・ソングク、ソ・ヨンファ、イ・ユンミ、カン・イソ、キム・シハ 【監督・脚本・製作・撮影・編集・音楽】ホン・サンス すれ違う会話が衝突した時に生まれる化学反応 昨年公開された『ミナリ』(リー・アイザック・チョン監督)は、1980年代にアメリカに移住した韓国人夫婦の物語。韓国人のアメリカへの移住は80年代末頃がピークとされている。日本人の移民が戦前が中心だったのに比べて、相当の時差があるのだが、アメリカが約束の地=夢を実現させる場所であるという幻想に大差はない。毎年3万人を超えていた移住者は、87年をピークに徐々に減りはじめた。個人的な印象では、キャリアアップのための人々が、現在では主流となっているように感じる。 長いアメリカ暮らしから、サンオク(イ・ヘヨン)が韓国に帰国する。 妹のジョンオク(チョ・ユニ)は、母を亡くして以来、疎遠になっていた姉の帰郷に戸惑いは感じたが、穏やかな日々を暮らすいま、わだかまりもなく姉を迎えようとしている。 妹の息子=甥が経営する店を訪ねたり、湖の見えるカフェで、空白を感じさせない会話を楽しむ。 『あなたの顔の前に』は、サン・ホンス監督の『イントロダクション』に続く、26作目の作品になるが、物語の骨格や構成は、前々作の『逃げた女』(2020年/日本公開2021年)に近い。来訪者は懐かしい縁の人や場所を訪ね歩く。 サンオクは、今は引退状態なのだが、女優としてキャリアがあったことが、街中でファンから声をかけられることでわかる。そして、今回の帰国の目的は、出演オファーを申し出た映画監督の話を聞くことだった。 サン・ホンス映画のヒロインは謎めいている。本作のサンオクにも "何故" が幾つかあって、それは妹との会話や、生家を訪ねた際の昔話で、明らかになるのだが、それも極めて小さく漸く見えるか細い光に過ぎない。 しかし、終盤に用意されている映画監督との会話は異様なまでに生々しく発展していく。はじめぎこちなかったふたりの空間が、酒の力か?打ち解け接近して行く。10分にも及ぶ長回しの会話。それは全て真実か?感情の隙間で見え隠れする本性が一瞬、恐ろしく囁きかけてくる。怖い映画だ。 語り手:覗き見猫映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。 100% 観たい! (8)検討する (0) 語り手:覗き見猫映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。 2024年09月26日 / どら平太 日本映画黄金時代を彷彿とさせる盛りだくさんの時代劇 2024年09月26日 / 潜水艦コマンダンテ 誇り高き決断 助けを求める人はもはや敵ではなく、ただの人間だ 2024年09月26日 / 潜水艦コマンダンテ 誇り高き決断 海の男たちが下す決断を描くヒューマンドラマ more 2024年06月05日 / shimane cinema ONOZAWA(島根県) 山陰の地方都市に復活した街の小さな映画館。 2019年12月25日 / 佐世保シネマボックス太陽(長崎県) 戦前・戦後と造船の街として栄えた繁華街にともる映画の灯 2023年11月27日 / 鯖江アレックスシネマ(福井県) ものづくりの街にある映画館に溢れる観客の笑顔。 more
すれ違う会話が衝突した時に生まれる化学反応
昨年公開された『ミナリ』(リー・アイザック・チョン監督)は、1980年代にアメリカに移住した韓国人夫婦の物語。韓国人のアメリカへの移住は80年代末頃がピークとされている。日本人の移民が戦前が中心だったのに比べて、相当の時差があるのだが、アメリカが約束の地=夢を実現させる場所であるという幻想に大差はない。毎年3万人を超えていた移住者は、87年をピークに徐々に減りはじめた。個人的な印象では、キャリアアップのための人々が、現在では主流となっているように感じる。
長いアメリカ暮らしから、サンオク(イ・ヘヨン)が韓国に帰国する。
妹のジョンオク(チョ・ユニ)は、母を亡くして以来、疎遠になっていた姉の帰郷に戸惑いは感じたが、穏やかな日々を暮らすいま、わだかまりもなく姉を迎えようとしている。
妹の息子=甥が経営する店を訪ねたり、湖の見えるカフェで、空白を感じさせない会話を楽しむ。
『あなたの顔の前に』は、サン・ホンス監督の『イントロダクション』に続く、26作目の作品になるが、物語の骨格や構成は、前々作の『逃げた女』(2020年/日本公開2021年)に近い。来訪者は懐かしい縁の人や場所を訪ね歩く。
サンオクは、今は引退状態なのだが、女優としてキャリアがあったことが、街中でファンから声をかけられることでわかる。そして、今回の帰国の目的は、出演オファーを申し出た映画監督の話を聞くことだった。
サン・ホンス映画のヒロインは謎めいている。本作のサンオクにも "何故" が幾つかあって、それは妹との会話や、生家を訪ねた際の昔話で、明らかになるのだが、それも極めて小さく漸く見えるか細い光に過ぎない。
しかし、終盤に用意されている映画監督との会話は異様なまでに生々しく発展していく。はじめぎこちなかったふたりの空間が、酒の力か?打ち解け接近して行く。10分にも及ぶ長回しの会話。それは全て真実か?感情の隙間で見え隠れする本性が一瞬、恐ろしく囁きかけてくる。怖い映画だ。
語り手:覗き見猫
映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。
語り手:覗き見猫
映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。