岐阜新聞映画部映画館で見つけた作品あなたの顔の前に B! 素晴しいロケーション。中身は豊穣で奥行きも深い 2022年08月03日 あなたの顔の前に © 2021 Jeonwonsa Film Co. All Rights Reserved 【出演】イ・ヘヨン、チョ・ユニ、クォン・ヘヒョ、シン・ソクホ、キム・セビョク、ハ・ソングク、ソ・ヨンファ、イ・ユンミ、カン・イソ、キム・シハ 【監督・脚本・製作・撮影・編集・音楽】ホン・サンス 顔の前にあることだけを見ることが出来たら何も怖くありません 本作の主演女優イ・ヘヨンは、ホン・サンス監督とは初めての仕事である。監督へのインタビューによると、彼女にオファーしたのは監督の母の葬儀に列席されたから思い浮かんだらしい。 ホン・サンスの映画作りは、アイデアや台本が先にあってその役に合わせて俳優を決めるという一般的なパターンではなく、まずはいつから撮り始めるかの日付を決め、次に撮影場所と主演俳優を決め、そこから映画のアイデアを生み出していくのだそう。 『あなたの顔の前に』も、イ・ヘヨンの姿を見て監督の亡くなった姉のことや人生にまつわることを思いだし、それが出発点になったとのこと。だからサンオク(イ・ヘヨン)が会う約束をしていた人が映画監督という設定だったのだと得心がいった。 ホン・サンス映画は会話や独白などセリフが多く、その言葉から意味を読み解こうとするが、実は発している言葉の裏にある真実や行間も読みとらなければならず、一瞬たりとも聞き逃せないし僅かな表情やチョットした仕草も見逃せない。上映時間は短いし登場人物も少ないが、中身は豊穣で奥行きも深い。 映画はアメリカから突然帰国したサンオクのある1日を描いている。妹の家で目覚め、池のほとりのカフェテラスで朝食をとり、甥のトッポッキの店を覗き、昔住んでいた家に立ち寄り、映画監督とは居酒屋「小説」で会う。ホン・サンスのいう「場所」と「俳優」を揃えてから物語を紡ぎだす。だからピッタリくるのだろう。素晴らしいロケーションだ。 素敵なセリフがある。 「顔の前にあることだけを見ることが出来たら何も怖くありません」 サンオクは、ある秘密があってアメリカから帰国したのだが、彼女は出会った人物の言葉や行動を素直に受け止め自分に受け入れる。大袈裟に嘆き悲しんだり、不自然に元気に振る舞ったりしない。逆に映画監督の言い訳じみたメッセージが滑稽で虚しく感じる。 いつまでも心に残る映画だ。 語り手:ドラゴン美多中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。 100% 観たい! (7)検討する (0) 語り手:ドラゴン美多中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。 2024年09月06日 / 幸せのイタリアーノ 嘘からはじまるロマンチックコメディ 2024年09月06日 / 愛に乱暴 真面目に生きてきた女性が壊れる 2024年09月06日 / 愛に乱暴 人間の我慢の限界を描き、本質に迫った映画 more 2024年09月05日 / 京都シネマ(京都府) 過去と現在の重なりを感じる映画館でゆったりと。 2018年05月02日 / ヒカリ座(栃木県) 宮っこたちに慕われ続ける餃子の街の映画館 2019年09月04日 / 洲本オリオン(兵庫県) 瀬戸内海にある島に唯一残る映画館で映画を観る楽しみ more
顔の前にあることだけを見ることが出来たら何も怖くありません
本作の主演女優イ・ヘヨンは、ホン・サンス監督とは初めての仕事である。監督へのインタビューによると、彼女にオファーしたのは監督の母の葬儀に列席されたから思い浮かんだらしい。
ホン・サンスの映画作りは、アイデアや台本が先にあってその役に合わせて俳優を決めるという一般的なパターンではなく、まずはいつから撮り始めるかの日付を決め、次に撮影場所と主演俳優を決め、そこから映画のアイデアを生み出していくのだそう。
『あなたの顔の前に』も、イ・ヘヨンの姿を見て監督の亡くなった姉のことや人生にまつわることを思いだし、それが出発点になったとのこと。だからサンオク(イ・ヘヨン)が会う約束をしていた人が映画監督という設定だったのだと得心がいった。
ホン・サンス映画は会話や独白などセリフが多く、その言葉から意味を読み解こうとするが、実は発している言葉の裏にある真実や行間も読みとらなければならず、一瞬たりとも聞き逃せないし僅かな表情やチョットした仕草も見逃せない。上映時間は短いし登場人物も少ないが、中身は豊穣で奥行きも深い。
映画はアメリカから突然帰国したサンオクのある1日を描いている。妹の家で目覚め、池のほとりのカフェテラスで朝食をとり、甥のトッポッキの店を覗き、昔住んでいた家に立ち寄り、映画監督とは居酒屋「小説」で会う。ホン・サンスのいう「場所」と「俳優」を揃えてから物語を紡ぎだす。だからピッタリくるのだろう。素晴らしいロケーションだ。
素敵なセリフがある。
「顔の前にあることだけを見ることが出来たら何も怖くありません」
サンオクは、ある秘密があってアメリカから帰国したのだが、彼女は出会った人物の言葉や行動を素直に受け止め自分に受け入れる。大袈裟に嘆き悲しんだり、不自然に元気に振る舞ったりしない。逆に映画監督の言い訳じみたメッセージが滑稽で虚しく感じる。
いつまでも心に残る映画だ。
語り手:ドラゴン美多
中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。
語り手:ドラゴン美多
中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。