岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

ユーモアと温かみのある疑似家族映画の傑作

2022年07月28日

ベイビー・ブローカー

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【出演】ソン・ガンホ、カン・ドンウォン、ぺ・ドゥナ、イ・ジウン、イ・ジュヨン
【監督・脚本・編集】是枝裕和

山田太一のドラマのように理性に訴る作品

是枝裕和監督の劇映画はすべて映画館で観ている。

テレビマンユニオンでドキュメンタリーを撮っていた是枝監督の初期の劇映画は、セミドキュメンタリータッチで登場人物の台詞より映像に多くを語らせる作品。その中では、育児放棄された子どもたちを描いた「誰も知らない」が、ひとつの到達点と言える傑作であった。

「誰も知らない」の次に撮った「花よりもなほ」は時代劇で、この作品から作風がより劇映画的に転換している。

その次の「歩いても 歩いても」は是枝監督がこだわるホームドラマで、彼が大きな影響を受けたと語る向田邦子や山田太一のテレビドラマを彷彿とさせる素晴らしい作品。この映画あたりから映像と同様に登場人物にも多くを語らせる、ダイアローグ重視の傾向が顕著になっている。

さらに「そして父になる」になると、より山田太一のドラマの構造に近づいている。山田太一のドラマは、生活環境等の違いでまったく異なる考え方や価値観の個人や家族が何かの理由で急接近し、互いに本音で語り合うことで違いを超えて歩み寄る作品が多い。

是枝監督が韓国人スタッフ&キャストで撮った韓国映画「ベイビー・ブローカー」は、「万引き家族」の姉妹編のような疑似家族を描いた、ユーモアと温かみのあるヒューマン映画の傑作。そして、かつて親に捨てられた子と子を捨てようとした母親、ベイビー・ボックスに捨てられた乳児を裏ルートで養子を求める親に販売するブローカーとそれを摘発する刑事等、それぞれ違った立場の登場人物の多様な視点と意見が交錯する、山田太一的な理性に訴えかける作品になっている。

語り手:井上 章

映画鑑賞歴44年。出来る限り映画館で観ることをモットーとし、日本映画も外国映画も、新作も旧作も、ジャンルを問わず観てきたおかげか、2006年に、最初の映画検定1級の試験に最高点で合格しました。

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語り手:井上 章

映画鑑賞歴44年。出来る限り映画館で観ることをモットーとし、日本映画も外国映画も、新作も旧作も、ジャンルを問わず観てきたおかげか、2006年に、最初の映画検定1級の試験に最高点で合格しました。

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