岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

再び偽家族を題材にした韓国産是枝映画

2022年07月28日

ベイビー・ブローカー

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【出演】ソン・ガンホ、カン・ドンウォン、ぺ・ドゥナ、イ・ジウン、イ・ジュヨン
【監督・脚本・編集】是枝裕和

観覧車のシーンは名場面として記憶される

夜、土砂降りの雨の中、若い女性が坂道を登る。その先には教会の施設と思しき建物がある。女性は胸元に何かを抱えている。建物は閉ざされているが、ただ、1ヶ所、灯りに照らされた箇所がある。そこは "赤ちゃんポスト" と記された、開閉式の投入口だった。

少し離れた場所に停まる車には、2人の女性がいて、その様子を観察している。会話からはスジン刑事(ぺ・ドゥナ)とイ刑事(イ・ジュヨン)の上司と部下の関係性が見え、その仕事には、特定の対象者はいない張込みだとわかる。

ポストの前、若い女性は抱えていたもの=赤ん坊を地面に置き去りにする。

2人の刑事は赤ん坊をポストへ入れる。対象は置き去りにした母親にあるのではなく、別の目的=標的があった。

『ベイビー・ブローカー』は是枝裕和監督が、自らのオリジナル脚本を韓国人キャスト、スタッフで撮り上げた "韓国映画" である。

置き去りにされた赤ん坊は、ポストを経て、施設の裏口から運び出され、刑事達は尾行につく。到着したのはクリーニング店で、店主のサンヒョン(ソン・ガンホ)と施設の職員ドンス(カン・ドンウォン)は、赤ん坊の斡旋をする一味だった。

物語は引取り先を訪ねる旅=ロードムービーの形式で進行する。男ふたり旅のはずが、赤ん坊の実母ソヨン(イ・ジウン))が加わり、さらに、途中立ち寄ったドンスが在籍していた養護施設から逃げ出した子どもまでが同行する。さながら、"偽家族" が形成されるのは、是枝の『万引き家族』を思わせる。

大きな動きや派手な展開があるわけでもなく、笑いを誘うすかした雰囲気が漂う、淡々とした会話劇だが、次第にそれぞれが抱える家族の問題が浮かび上がってくる重層的で巧みな脚本構成が秀抜。土俵(国)は違っても、自らのカラーを落とさない作家性はさすがだ。

ラスト、数年後の後日談的なエピローグでは、細やかな幸せが暗示されるが、その中、サンヒョンの犯罪と姿を消したことが語られる。土砂降りの雨と行方不明の主人公…『パラサイト 半地下の家族』のポン・ジュノ監督へのオマージュが見える。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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