岐阜新聞映画部映画館で見つけた作品逆光 B! 70年代・尾道・三島由紀夫、傷つけあう青春映画 2022年07月20日 逆光 © 2 0 2 1 『逆光』F I L M 【出演】須藤蓮、中崎敏、富山えり子、木越明 【監督】須藤蓮 よく分からない吉岡が空けた布団の隣りは誘いか悪戯か 夏、東京の大学に通う晃(須藤蓮)は、先輩の吉岡(中崎敏)を誘い、広島・尾道に久しぶりに帰省する。 お決まりの地元案内もネタが尽きてしまうと、晃は吉岡を退屈させまいと気にかけるが、吉岡は晃の実家のゆったりとしたお屋敷感が気に入った様子。 道で遭遇し晃の帰郷を知った幼なじみの文江(富山えり子)が、借りていた本を返しにやって来る。子どもの頃、東京から尾道に引越した転校生で、いじめの標的にされた晃を庇ったのは文江だった。吉岡には知られたくない過去。道でのすれ違いの時の、突き放した冷たい態度にはそんな理由が隠されていた。 『逆光』は、夏休みに故郷に帰って来た若者が繰り広げる青春映画の王道の設定だが、始まりからの晃の吉岡を見つめる視線や態度から読みとれるのは、単なる憧れを超えた恋心である。 文江が返しにきた本にはじまり、繰り返し登場するのが三島由紀夫であることから、「仮面の告白」で、同性の同級生の近江に恋する主人公の私(=三島)の姿が晃と重なる。 晃の頼みで取り敢えず文江が調達した、みーこを交えてつるむようになった4人は、海へ遊びに行ったり、夏まつりへ出かけようとするのだが、安全パイと思っていた少し変わった性格のみーこに、吉岡が興味を抱くようになり、晃の心はざわつき始める。 監督は企画の段階から関わり、晃を演じた須藤蓮で、映画が撮影されたのは2年前だから当時は23歳だった。初監督に挑んだ、てらいや気負いはなく、事前に構築した構想から作られた細やかな映像。晃と吉岡の微妙な距離感を表現するカメラワークとカット割り、構図にもこだわりが感じられる。 劇中、"氷まくら" が、プロップ=小道具として2度登場する。海から帰った夜、日焼けで熱って眠れないと訴える吉岡の背中に氷まくらを当てる晃。もうひとつは、看護婦の文江が、看取り終えた患者の腹部に、氷まくらをそっと置くシーン。死の対照としての生の象徴、身体の火照りというエロス。 脚本は『メゾン・ド・ヒミコ』(犬童一心・監督)などの渡辺あや。シーンを断ち切り、"逆行" させる事で事実を読み解き想像するという構成は、新人監督に突きつけた挑戦状のように見える。 語り手:覗き見猫映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。 100% 観たい! (8)検討する (0) 語り手:覗き見猫映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。 2023年06月06日 / せかいのおきく 阪本順治監督の代表作のひとつとなる秀作 2023年06月06日 / せかいのおきく 幕末を舞台に健気な生業を見つめた青春時代劇 2023年06月06日 / せかいのおきく 小説の連作短編集みたいな味わいの映画だ more 2023年04月12日 / 丸の内TOEI(東京都) 銀座にある東映のメイン劇場で映画の醍醐味を満喫。 2020年06月10日 / ジストシネマ田辺(和歌山県) 紀伊半島の港町にある地元密着型の映画館 2019年10月16日 / シネマ・ジャック&ベティ(神奈川県) 戦後からハマの映画ファンを唸らせ続けた双子の映画館 more
よく分からない吉岡が空けた布団の隣りは誘いか悪戯か
夏、東京の大学に通う晃(須藤蓮)は、先輩の吉岡(中崎敏)を誘い、広島・尾道に久しぶりに帰省する。
お決まりの地元案内もネタが尽きてしまうと、晃は吉岡を退屈させまいと気にかけるが、吉岡は晃の実家のゆったりとしたお屋敷感が気に入った様子。
道で遭遇し晃の帰郷を知った幼なじみの文江(富山えり子)が、借りていた本を返しにやって来る。子どもの頃、東京から尾道に引越した転校生で、いじめの標的にされた晃を庇ったのは文江だった。吉岡には知られたくない過去。道でのすれ違いの時の、突き放した冷たい態度にはそんな理由が隠されていた。
『逆光』は、夏休みに故郷に帰って来た若者が繰り広げる青春映画の王道の設定だが、始まりからの晃の吉岡を見つめる視線や態度から読みとれるのは、単なる憧れを超えた恋心である。
文江が返しにきた本にはじまり、繰り返し登場するのが三島由紀夫であることから、「仮面の告白」で、同性の同級生の近江に恋する主人公の私(=三島)の姿が晃と重なる。
晃の頼みで取り敢えず文江が調達した、みーこを交えてつるむようになった4人は、海へ遊びに行ったり、夏まつりへ出かけようとするのだが、安全パイと思っていた少し変わった性格のみーこに、吉岡が興味を抱くようになり、晃の心はざわつき始める。
監督は企画の段階から関わり、晃を演じた須藤蓮で、映画が撮影されたのは2年前だから当時は23歳だった。初監督に挑んだ、てらいや気負いはなく、事前に構築した構想から作られた細やかな映像。晃と吉岡の微妙な距離感を表現するカメラワークとカット割り、構図にもこだわりが感じられる。
劇中、"氷まくら" が、プロップ=小道具として2度登場する。海から帰った夜、日焼けで熱って眠れないと訴える吉岡の背中に氷まくらを当てる晃。もうひとつは、看護婦の文江が、看取り終えた患者の腹部に、氷まくらをそっと置くシーン。死の対照としての生の象徴、身体の火照りというエロス。
脚本は『メゾン・ド・ヒミコ』(犬童一心・監督)などの渡辺あや。シーンを断ち切り、"逆行" させる事で事実を読み解き想像するという構成は、新人監督に突きつけた挑戦状のように見える。
語り手:覗き見猫
映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。
語り手:覗き見猫
映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。