岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

用意周到なアプローチ、言葉巧みにターゲットに近づく

2022年07月12日

死刑にいたる病

©2022 映画「死刑にいたる病」製作委員会

【出演】阿部サダヲ、岡田健史、岩田剛典、中山美穂
【監督】白石和彌

目は笑ってなく心の内を見せない俳優

コメディアンが凶悪殺人犯役をやると、普段とのギャップから恐ろしさが増してくる。七福神顔のでんでんが鬼畜殺人犯を演じた『冷たい熱帯魚』(2011)や、"たけちゃんマン"全盛時のビートたけしが連続女性殺人犯を演じた『昭和四十六年 大久保清の犯罪』(1983/TBSテレビ)など、強烈な印象を残している。

そこに新たなコメディアンが加わった。『死刑にいたる病』の犯人役・阿部サダヲである。彼のパブリックイメージは、エキセントリックでハイテンションで傍にいると面倒くさそーな奴であるが、よくみると目は笑ってなく心の内を見せない俳優である。ペーソスよりもアイロニーを感じることが多く乾いた笑いだ。

そんな彼が本作で少年少女24人を殺害したというシリアルキラーを演じる。白石和彌監督の『彼女がその名を知らない鳥たち』(2017)で主役を演じているが、満員電車で男性を突き飛ばすシーンのとき監督から「5分前に人を殺してきた目で見てほしい」というリクエストがあり、そのゾクゾクするような表現力もあって今回の起用になったそうだ。

商店街でパン屋を営む榛村大和(阿部サダヲ)の裏の顔は、真面目な少年少女をいたぶり猟奇的な方法で殺害していく連続殺人犯。命乞いする少年少女を無慈悲な目で見つめながら最も見たくなかった方法で殺す。スクリーンから目をそらさずにはいられない。

この映画の真骨頂は狙ったターゲットに近づいていく用意周到なアプローチの部分だ。「親切ないい人」というキャラで、何かしら不幸な部分を持った少年少女に時間をかけて言葉巧みに入り込んでいく。彼らの心を解き放ち癒しを与える。

この部分には「そんなわけないだろ」と思わせない説得力がいるが、阿部サダヲのパブリックイメージを見事に使って真実味を持たせているのだ。

岡田健史も健闘しているが、やっぱり阿部サダヲだ。彼の代表作となるであろう。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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