何故人類は過ちを繰り返すのか？

イスラム教では、コーランにある預言者ロトの「女のかわりに男に対して欲情を催すとは。まことに言語道断な奴」（岩波文庫『コーラン・上』井筒俊彦訳）との言葉を根拠に、同性愛を徹底して禁止している。

アフガニスタンでも「神の秩序に反逆する不道徳で禁じられた行為」とされ、同性愛が周囲に知られただけでも迫害され親族にまで身の危険が及ぶ。

同性婚が合法のデンマークで男性パートナーと暮らす本作の主人公アミンは、特定されないために仮名を使い、素顔を出さないためにアニメーションでの映像化を許可したわけだが、SNS全盛の現代ではバレてしまうかもしれないリスクは常にある。それでもアミンが勇気をもって、自らの過酷な体験と不合理を世に知らしめたのには拍手するしかない。

映画は、アミンが少年時代の幸せだった思い出から始まり、アフガン紛争により家族総出で友好国だったソ連へ国外脱出するも、間もなくソ連は崩壊。そして混乱するロシアから西側への出国も困難を極め、ようやくデンマークへ落ち着くかまでの想像を絶する物語が、インタビュー形式で綴られていく。

その語りがアニメーションで再現されるのだが、むしろ劇映画やドキュメンタリーなどリアルな映像でないからこそ見ていられるほどの衝撃だ。そして時おり挟まれるニュース映像によって、アニメーションの部分の真実味が増してくるという手法だ。

面白いのはアミンが少年時代のアフガニスタンの様子だ。最初の方に北欧のポップバンド、a-haの８０年代のヒット曲「Take On Me」が流れる。彼が少年時代に流行っていたのだ。そして夢中になっていたのが、格闘技俳優ジャン＝クロード・ヴァン・ダム。昔は西洋文化も入ってくるような自由さがあったのだ。

そんな国が、大国の思惑や国内の宗教的押し付けで国民は辛酸を舐めるようになる。

何故人類は過ちを繰り返すのか？現在進行形の傑作である。