岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

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「快楽の園」を観て、あなたの心の声は何を思う

2018年02月26日

謎の天才画家 ヒエロニムス・ボス

© Museo Nacional del Prado © López-Li Films

【出演】ラインダー・ファルケンブルグ、オルハン・パムク、サルマン・ラシュディ、セース・ノーテボーム、ルネ・フレミング
【監督】ホセ・ルイス=リナレス

他人と会話できる絵画

 何の予備知識も無しに観る映画も楽しいが、予習をしておいた方がより理解が深まる映画もある。第1回岐阜新聞映画部アートサロンで上映された『謎の天才画家 ヒエロニムス・ボス』は、私にとってまさにそういった映画であった。美術に疎くボスの名前も知らず、相当手強くて、このままでは惨敗だろうと予想できたため、事前に「ヒエロニムス・ボスの『快楽の園』を読む」(河出書房新社)と「『快楽の園』ボスが描いた天国と地獄」(新人物往来社)(両書共・神原正明著)を熟読の上、鑑賞に臨んだ。付け焼刃ではあるが、これを作った監督に対しての真剣勝負に挑めたのでないかと思っている。
 映画はタルコフスキーの言葉「人々は傑作に感動すると自らの心の声に耳を傾ける。その心の声こそが芸術家を動かす真実なのだ」から始まる。この絵画の全体像を説明するなど初心者向けの導入部はなく、すぐに分析が始まる。「快楽の園」は、人間や動物、鳥、果実に楽器、独創的な怪物などが写実的に描かれ、数も多く謎に包まれているため、見る人によって様々な解釈が生まれてくる。
 この映画で謎解きにかかるのは、美術史家、ノーベル賞作家、画家、指揮者、歌手など様々なジャンルの専門家だ。夢を描いたという人もいれば、現実を描いたと考える人もいる。アプローチ方法も様々であり、美術的解釈に宗教的見解、歴史的背景に、後世に与えた影響、X線を用いた下絵の分析に至るまで、多種多様だ。さらに絵画の中の様々な部分を接写で精密に撮影しており、肉眼で見るよりも情報量が多く、我々に絵画を見る事の楽しさ、解釈の自由さを教えてくれる。もっと言えば、独自の見方を他人に伝え、議論するきっかけとなるような絵画でもある。会話ができる絵画なのだ。
 映画を観終わる頃には、自分なりの分析が始まっている。「自らの心の声に耳を傾け」て、ボスの謎を楽しんでいくために。

『謎の天才画家 ヒエロニムス・ボス』は岐阜CINEXで3/2(金)まで公開中。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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