岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

地域共同体が機能していた昭和を描く、ノスタルジー全開の映画

2022年06月01日

とんび

©2022 『とんび』 製作委員会

【出演】阿部寛、北村匠海、薬師丸ひろ子、杏、安田顕、大島優子、麻生久美子、麿赤兒、濱田 岳、宇梶剛士、尾美としのり、田中哲司、豊原功補、嶋田久作、村上淳、吉岡睦雄、宇野祥平、木竜麻生、井之脇海、田辺桃子
【監督】瀬々敬久

人と人の生の触れ合いってやっぱりいいなと思わせる

原作者の重松清さんは昭和38年(1963年)3月岡山県津山市の生まれ。早稲田大学を昭和60年(1985年)に卒業後角川書店へ入社、1年ほどで退社し小説を執筆し始め、平成12年(2000年)「ビタミンF」で直木賞を受賞した。

本作の舞台は瀬戸内海に面した広島県の備後市(架空の街)。語り手となる市川旭(北村匠海)は昭和37年(1962年)の生まれで早大卒、出版社勤務を経て直木賞作家となる設定。重松清さんの生い立ちを織り交ぜながらのフィクションである。

私は昭和33年(1958年)4月生まれなので、映画に描かれていた昭和30年後半から40年代までの空気感に酔いしれてしまった。監督の瀬々敬久さんは昭和35年(1960年)5月の大分県生まれ。映画全体が私にとっては"ビンゴ"だった。

主人公のヤスこと市川安男(阿部寛)は、戦前の生まれでおそらく昭和ヒトケタ。乱暴者で家父長制を体現したような親父的部分と、価値観が一変し戦後民主主義の中で理解のある父親であろうとする部分との葛藤で、実に情けない恰好を見せてしまう。この無様な生き方が何ともいじらしく、実はチョットカッコよくもある。

映画の中の主要な登場人物は、みんな夫婦の縁も親子の縁も薄い。しかし一杯飲み屋に行けばいつものみんなと会えるし、母親がいない子は、子どもがいない大人が半分育ててくれる。あの頃は怖いオジサンや世話焼きなおばさんがいて地域共同体が機能していたのだ。懐かしい。

ノスタルジー全開でいい人だらけの映画はいつもは若干引いて観てしまうが、身体が勝手に反応して涙が出てきてしまった。旭君が7歳上のコブ付きの彼女を故郷へ連れてきたときのみんなの小芝居なんか、普通だったらシラケるのにたまらないほど泣けてきた。

オンラインで顔を見ながら話が出来る今の時代、人と人の生の触れ合いってやっぱりいいなと思わせる。映画館で観てよかった。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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