岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

ベルイマンを通じて創造の原点を再確認するひと夏の物語

2022年05月23日

ベルイマン島にて

© 2020 CG Cinéma ‒ Neue Bioskop Film ‒ Scope Pictures ‒ Plattform Produktion ‒ Arte France Cinéma

【出演】ヴィッキー・クリープス、ティム・ロス、ミア・ワシコウスカ、アンデルシュ・ダニエルセン・リー
【監督・脚本】ミア・ハンセン=ラブ

過去と現在、現実と空想が複雑な展開を見せていく

今から十数年前、親しい友人たちと44年続く年間ベストテン選考会を茅ヶ崎館で開催したことがある。小津安二郎が野田高梧らと共に脚本を執筆した定宿であり、『晩春』や『東京物語』等の傑作が生まれた宿である。翌日は多くの作品の舞台になった円覚寺をはじめとする北鎌倉を散策し、小津映画の原風景を探訪した。

一介の映画マニアでも好きな監督の創造の原点に触れて作品をより深く堪能したいと思うわけだが、実際の映画監督ならなおさら追体験したいと思う気持ちはよくわかる。

本作は、世界的巨匠であるイングマール・ベルイマン監督が『叫びとささやき』や『ある結婚の風景』などの傑作を撮影し晩年は住処としていたフォーレ島を舞台に、倦怠期の映画監督夫妻がベルイマンの世界を追体験しながら創造の原点を再確認するというひと夏の物語だ。

本作は、ベルイマン映画を観ていた方がより一層楽しめるのは確かだが、難解というわけではない。映し出される画面の隅々まで意味を持たせ緊張感が漂っていたベルイマン映画と違い、最初は観光映画のようだ。

バルト海に浮かぶ小さな島には、海岸沿いに奇岩群が立ち並び各所に中世の城壁や砦が残っている。そんな大自然と歴史の中にベルイマンの自宅や仕事場、試写室やお墓まであり、そこを巡るツアーもある。ちょっとしたテーマパークだ。これだけでも十分元は取れる。

著名な大監督トニー(ティム・ロス)と新進監督クリス(ヴィッキー・クリーブス)の年の差カップルは、ベルイマンに思いをはせつつそれぞれが新作の脚本執筆にとりかかる。

当初はリアリズムでお話も直線的に流れていくが、映画が進むにつれ、過去と現在、現実と空想が混ざり合いながら複雑な展開を見せていく。

脚本がどういうシチュエーションでどう作られていくか、現実をどう落とし込んでいくか?

ミア・ハンセン=ラブ監督のベルイマン愛に満ちた、微笑ましいい作品だ。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

観てみたい

100%
  • 観たい! (7)
  • 検討する (0)

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

ページトップへ戻る