岐阜新聞映画部映画館で見つけた作品ニトラム/NITRAM B! 無差別銃乱射事件の真実に迫るサスペンス映画 2022年05月10日 ニトラム/NITRAM © 2021 Good Thing Productions Company Pty Ltd, Filmfest Limited 【出演】ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、ジュディ・デイヴィス、エッシー・デイヴィス、ショーン・キーナン ほか 【監督】ジャスティン・カーゼル 不明瞭な動機を敢えて追求しない冷淡なカメラアイ 静かな住宅街の静寂を破る花火の爆裂音。非難する怒鳴り声を無視して、着火を続ける長髪の男。それを傍観する両親。父は息子の行為に嘆息する。母は花火を取り上げることをしない夫を咎める。子供っぽい悪戯のような振舞いに見えるが、そこに発生する親子の関係性には違和感が浮かび上がる。 海岸に立つ長髪の男。波と格闘するサーファーを見つめている。何処かから「ニトラム!」と呼ぶ声がする。ニトラムと呼ばれる長髪の男。彼の名は ”MARTIN"=マーティン、それを逆さに読んだのが彼のあだ名のような呼び名、"NITRAM"=ニトラム…彼はそう呼ばれるのを嫌った。 ○ニトラムと母 ニトラムはサーフボード欲しがる。無駄遣いを指摘し、「何かしろ!」=働け、と叱責する。 精神科への受診の場。安定剤の減量を提案する医師に、生活保護費の減額を懸念して、現状の維持を主張する母。委縮したまま何もできないニトラム。 ○ニトラムと父 母との関係と違うのは、スキンシップが存在すること。父はニトラムをドライブに連れ出し、購入を計画している郊外に建つ建物を見学し夢を語る。 ひとつひとつのエピソードの繰り返しから、親子の状況をあぶり出す。笑わない無表情な母が象徴するように、説明を排した物語の進行は、微妙な緊張感を持続して、ニトラムを取り巻く、危ういバランスで揺らぐ、その周囲と人々の行為を見つめる。 そしてある日、芝刈りの営業でヘレンという女性と出会う。 『ニトラム NITRAM』は、1996年4月28日にオーストラリア・タスマニア島で発生した無差別銃乱射事件の犯人、マーティン(ニトラム)の姿を描く。行動、表情、感情のざわめき。当時28歳だった彼の犯行動機は不明瞭なまま、いや、真実は分からないという断定のもと、その視点は冷淡にさえ見える。 ニトラムを演じたケイレブ・ランドリー・ジョーンズは、孤独と劣等感の発露としての狂気を見事に演じ作品を支えた。 監督はオーストラリアを代表する映画作家ジャスティン・カーゼル。心理の深層に迫る、丹念な構成の脚本と、繊細な映像演出が素晴らしい。 語り手:覗き見猫映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。 100% 観たい! (9)検討する (0) 語り手:覗き見猫映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。 2024年09月06日 / 幸せのイタリアーノ 嘘からはじまるロマンチックコメディ 2024年09月06日 / 愛に乱暴 真面目に生きてきた女性が壊れる 2024年09月06日 / 愛に乱暴 人間の我慢の限界を描き、本質に迫った映画 more 2018年05月02日 / ヒカリ座(栃木県) 宮っこたちに慕われ続ける餃子の街の映画館 2024年07月24日 / THEATER ENYA(佐賀県) 歴史と文化の城下町に市民の声で復活した映画館。 2021年02月24日 / シネマリオーネ古川(宮城県) この街に映画館を…という住民の声で復活した more
不明瞭な動機を敢えて追求しない冷淡なカメラアイ
静かな住宅街の静寂を破る花火の爆裂音。非難する怒鳴り声を無視して、着火を続ける長髪の男。それを傍観する両親。父は息子の行為に嘆息する。母は花火を取り上げることをしない夫を咎める。子供っぽい悪戯のような振舞いに見えるが、そこに発生する親子の関係性には違和感が浮かび上がる。
海岸に立つ長髪の男。波と格闘するサーファーを見つめている。何処かから「ニトラム!」と呼ぶ声がする。ニトラムと呼ばれる長髪の男。彼の名は ”MARTIN"=マーティン、それを逆さに読んだのが彼のあだ名のような呼び名、"NITRAM"=ニトラム…彼はそう呼ばれるのを嫌った。
○ニトラムと母
ニトラムはサーフボード欲しがる。無駄遣いを指摘し、「何かしろ!」=働け、と叱責する。
精神科への受診の場。安定剤の減量を提案する医師に、生活保護費の減額を懸念して、現状の維持を主張する母。委縮したまま何もできないニトラム。
○ニトラムと父
母との関係と違うのは、スキンシップが存在すること。父はニトラムをドライブに連れ出し、購入を計画している郊外に建つ建物を見学し夢を語る。
ひとつひとつのエピソードの繰り返しから、親子の状況をあぶり出す。笑わない無表情な母が象徴するように、説明を排した物語の進行は、微妙な緊張感を持続して、ニトラムを取り巻く、危ういバランスで揺らぐ、その周囲と人々の行為を見つめる。
そしてある日、芝刈りの営業でヘレンという女性と出会う。
『ニトラム NITRAM』は、1996年4月28日にオーストラリア・タスマニア島で発生した無差別銃乱射事件の犯人、マーティン(ニトラム)の姿を描く。行動、表情、感情のざわめき。当時28歳だった彼の犯行動機は不明瞭なまま、いや、真実は分からないという断定のもと、その視点は冷淡にさえ見える。
ニトラムを演じたケイレブ・ランドリー・ジョーンズは、孤独と劣等感の発露としての狂気を見事に演じ作品を支えた。
監督はオーストラリアを代表する映画作家ジャスティン・カーゼル。心理の深層に迫る、丹念な構成の脚本と、繊細な映像演出が素晴らしい。
語り手:覗き見猫
映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。
語り手:覗き見猫
映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。