岐阜新聞 映画部

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「英雄」に祭り上げられた男が、手の平返しのバッシング

2022年04月25日

英雄の証明

©2021 Memento Production Asghar Farhadi Production ARTE France Cinema

【出演】アミール・ジャディディ、モーセン・タナバンデ、サハル・ゴルデュースト、マルヤム・シャーダイ、アリレザ・ジャハンディデ、サレー・カリマイ、サリナ・ファルハディ
【監督・製作・脚本】アスガー・ファルハディ

イランではネコババが当たり前?

米アカデミー賞外国語映画賞を2度受賞したイラン映画界の巨匠アスガー・ファルハディ監督。彼の最新作でカンヌ映画祭グランプリに輝く『英雄の証明』に盗作疑惑が持ち上がっている。ネットによると、2014年に彼が講師を務めた映画製作講座の女性受講者が、自身のドキュメンタリー作品と酷似していると主張し苦情を申し立てたとのこと。

そのドキュメンタリーを観たライムスター宇多丸さんによると、同じ事件を題材にしているのだからそもそも同じであるのは当たり前、着想が一緒でもテーマは違っており「盗作」は完全に言い過ぎだとラジオで語っている。

このこと自体が『英雄の証明』の本質を語っている。自分のあずかり知らぬところでマスコミが一方的に片方の主張を採用し面白おかしく正義面をして報道する。偏った推測や誤報があっても通り一遍の謝罪ですませる。まさに本作のテーマそのものなのだ。

外国映画をみていると文化や価値観の違いに驚くことしきりだが、特にイスラム圏なんかは日本では想像もつかないことが多い。

本作で当たり前のように描かれている「借金を返さないと刑務所に入れられる」とか「たまに休暇という仮釈放がある」などは、"イランあるある"かもしれないが、「いったいどうなってるんだ?」である。

究極は「落とし物を返したら美談(英雄)になる」という本作のテーマそのもの。イランではネコババが当たり前なのかよ!とツッコミたくなるが、どうやらそうらしい。

映画はマスコミによって「英雄」に祭り上げられた主人公が、チョットしたきっかけで逆に世間からぶっ叩かれる様子を冷徹かつ滑稽に描いている。

「男のプライド」なんていう邪魔くさいものが最優先され、どんどん沼にはまっていく。気が付いたときはすべてパアという次第なのだ。SNSをはじめとする野次馬的で無責任な連中のバッシングは世界共通の事象らしい。世知辛い世の中だ。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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