岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

限りある命を抒情的に描いた珠玉の恋愛映画

2022年04月11日

余命10年

©2022映画「余命10年」製作委員会

【出演】小松菜奈、坂口健太郎、山田裕貴、奈緒、井口理/黒木華、田中哲司、原日出子、リリー・フランキー/松重豊
【監督】藤井道人

人生のかけがえのない瞬間が脳裏に刻まれる

藤井道人監督は、今最も期待している監督のひとりで、「光と血」、「デイアンドナイト」、「新聞記者」、「ヤクザと家族 The Family 」などの社会派エンタテインメントの傑作を連打する一方で、「青の帰り道」のような瑞々しい青春映画の秀作も撮っている。最新作「余命10年」は、後者に属する作品だ。

タイトルからわかるように、作品内容は難病ものであるが、よくあるお涙頂戴の可哀想な話にはしていない。限られた命を宣告されたヒロイン茉莉(まつり)が、打ちひしがれそうになりながらも懸命に生きる姿に、命ある限りいかに生きるかという事の大切さを教えられたかのようだ。その意味では、黒澤明監督の名作「生きる」と同じテーマの作品と言えよう。

藤井道人監督は、社会性のある映画作家であるだけでなく、優れた演出技巧の持ち主でもある。短いショットの積み重ねで、時間経過と季節の移り変わりとストーリーの進展を見せる術にたけている。それに加え「余命10年」では、岩井俊二監督や新海誠監督の作品を彷彿とさせる抒情的な描写が素晴らしい。突風に舞う桜の花びらを捉えたスローモーションのシーンは、そこに被さるRADWIMPSのメロディと共に、人生のかけがえのない美しい一瞬を脳裏に刻む。また、茉莉が劇中で撮影するビデオカメラが、ドラマの中で重要な役割を果たす。その役割の大きさは、大林宣彦監督の「転校生」の8ミリカメラや、森田芳光監督の「(ハル)」のビデオカメラの役割に匹敵する。終盤に茉莉が想像する自分が不治の病でなかった世界は、「ラ・ラ・ランド」を思い起こさせる。

「余命10年」は、小松菜奈と坂口健太郎の代表作となるであろう。それほどまでに、本作の二人は素晴らしい。

語り手:井上 章

映画鑑賞歴44年。出来る限り映画館で観ることをモットーとし、日本映画も外国映画も、新作も旧作も、ジャンルを問わず観てきたおかげか、2006年に、最初の映画検定1級の試験に最高点で合格しました。

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語り手:井上 章

映画鑑賞歴44年。出来る限り映画館で観ることをモットーとし、日本映画も外国映画も、新作も旧作も、ジャンルを問わず観てきたおかげか、2006年に、最初の映画検定1級の試験に最高点で合格しました。

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