岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

故郷への郷愁と平和への祈りを込めた傑作

2022年04月07日

ベルファスト

Ⓒ2021 Focus Features, LLC.

【出演】カトリーナ・バルフ、ジュディ・デンチ、ジェイミー・ドーナン、キアラン・ハインズ、ジュード・ヒル
【監督・製作・脚本】ケネス・ブラナー

白黒の映像美と優れた脚本と味わい深い演技

戦争や紛争下を舞台に子供を主人公にした作品には、「ジョジョ・ラビット」など優れた映画が少なくないが、ケネス・ブラナー監督の自伝的な作品の「ベルファスト」もそのひとつとして記憶されるであろう。

1969年の北アイルランドのベルファスト(ブラナー監督の出身地)が舞台。宗教的対立による危険と隣り合わせの緊張感の中、幼少期の豊かな日常が生き生きと描かれる。

モノクロの美しい映像が郷愁を誘い、アカデミー賞脚本賞受賞も頷けるディテール豊かな脚本と、俳優陣の味わい深い演技が素晴らしい。

ブラナー監督自身がモデルである主人公のバディ少年が、映画館で見る「恐竜100万年」や「チキ・チキ・バン・バン」、テレビで見る「リバティ・バランスを射った男」や「真昼の決闘」に夢中になるシーンも楽しい。そして、暴動の最中、ディミトリ・ティオムキンの「真昼の決闘」のテーマ曲をBGMに、暴徒に立ち向かう父親が長男(バディの兄)と見せる見事な連係プレーは、「リオ・ブラボー」に於けるジョン・ウェインとリッキー・ネルソンの連係プレーを彷彿とさせる。フレッド・ジンネマン監督の「真昼の決闘」に反発して、ハワード・ホークス監督が「リオ・ブラボー」を撮ったというエピソードを知る者には、2本の西部劇の名作が和解したような素敵なシーンだった。

やがて紛争が激化して、愛する故郷を離れなくてはならない切なさには、ウクライナの現状を重ね合わせて観てしまう。ガールフレンドはカソリックだと話すバディ少年に、父親が返す言葉が、世界の分断状態に対して、ケネス・ブラナー監督が映画に込めたメッセージだと思う。

語り手:井上 章

映画鑑賞歴44年。出来る限り映画館で観ることをモットーとし、日本映画も外国映画も、新作も旧作も、ジャンルを問わず観てきたおかげか、2006年に、最初の映画検定1級の試験に最高点で合格しました。

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語り手:井上 章

映画鑑賞歴44年。出来る限り映画館で観ることをモットーとし、日本映画も外国映画も、新作も旧作も、ジャンルを問わず観てきたおかげか、2006年に、最初の映画検定1級の試験に最高点で合格しました。

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