岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

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認知症の父と娘が辿る日常と記憶の旅

2022年03月29日

選ばなかったみち

© BRITISH BROADCASTING CORPORATION AND THE BRITISH FILM INSTITUTE AND AP (MOLLY) LTD. 2020

【出演】ハビエル・バルデム、エル・ファニング、ローラ・リニー、サルマ・ハエック
【監督・脚本】サリー・ポッター

人生の岐路にあった迷いや決断が明確に見えないのが残念

ニューヨークの街の片隅のアパートメントの一室。殺風景な部屋で、男はベットに横たわっている。

男はメキシコ人移民レオ(ハビエル・バルデム)。作家として活躍していたが、今、認知症を患い、誰かの手助けなしには普通の生活もままならない。

その日、娘のモリー(エル・ファニング)は、父を病院に連れて行くため、部屋を訪ねて来たが、ヘルパーとも実娘でさえも意志の疎通は困難だった。

監督、脚本はイギリス出身のベテラン女流、サリー・ポッターで、本作は若年性認知症を患った弟の介護という実体験から着想を得たという。

昨年、公開され、アンソニー・ホプキンスの名演とともに高い評価を受けた『ファーザー』(フローリアン・ぜレール監督)は、認知症を患ったアンソニーが、曖昧になっていく現実と幻想の境界を彷徨う話だった。その実態の映像化はそれが年齢の近い者であればあるほど、我が身にも起こりうる生々しい恐怖として観る者に迫った。アンソニーは80歳を越える年齢だったが、本作のレオはそれよりもかなり若い。

モリーは父を歯科医に連れて行くため、タクシーへと誘うのだが、身の回りの世話だけでも手を焼くのに、外出にはそれ以上の苦難が伴う。モリー自身も仕事に追われ、電話での対応を迫られ、それが焦りや苛立ちに変わる。

虚な眼差しのレオはひとり記憶の旅に出る…そこは生まれ故郷のメキシコ。取り止めもない女性との言い争い…記憶の旅は移ろい、太陽が眩しいギリシャのリゾート地へ。作家活動のための気分転換で訪れているのか? あるいは創作のスランプか? カフェテラスに来た旅行者らしい若い2人の女性に声をかけたりする。

『選ばなかったみち』は、人生の岐路で選択した道を認知症のレオの記憶で述懐する構成。しかし、それは断片のように示されるだけなので、物語の印象を些かぼやけさせているように思える。

レオを演じたハビエル・ バルデムは、難しい役どころに苦心しているが、キャラクター的には適役とは言い難い。モリー役のエル・ファニングは、父と娘の良き日々を見せることなく、苛立ちのみが強調される損な役回りでちょっとかわいそう。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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