岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

世界共通言語である音楽のチカラを借りた未来へ向けた映画

2022年03月22日

クレッシェンド 音楽の架け橋

© CCC Filmkunst GmbH

【出演】ペーター・シモニシェック、ダニエル・ドンスコイ、サブリナ・アマーリ
【監督】ドロール・ザハヴィ

一人一人とまとまっていく様は、まさにラヴェルの「ボレロ」だ

20世紀を代表するクラシック曲のひとつであるラヴェルの「ボレロ」。曲の最初から最後の2小節前までスネアドラムが同じリズムを刻みつつ、16小節からなる2つの美しい旋律が組み合わさって同じテーマを繰り返していく。

メロディを奏でるのは最初がフルートで続いてクラリネット、そして時間経過と共に楽器の数も増えていき、だんだん強く音量を増大(クレッシェンド)させながら爆発的な最後へと進んでいく。

その「ボレロ」をクライマックスに据えた『クレッシェンド 音楽の架け橋』は、パレスチナとイスラエルという敵対する地域からオーデションで選ばれた若者たちが、政治的・宗教的対立を音楽のチカラで乗り越えていこうとする、まさに「ボレロ」の主題のような未来へ向けた映画である。

世界的指揮者のスポルク(ペーター・シモニシェック)が、頼まれ仕事とはいえ趣旨に共鳴し集めた若者が20数人。その人数に絞っていく過程は、腕扱きのガンマンやサムライを選抜していくような幾多の名作と同じく抜群に面白い。目隠しオーディションをしてみたら「パレスチナ人の合格者が殆どいなかった」という現実も、それでは"協調"の趣旨に反するというジレンマも、予定調和で進んでいかないところがすこぶる愉快だ。

南チロルでの合宿では、お互いの陣営が腹蔵の無いののしり合いを経てから、同じ釜の飯を食うことによって次第に分かり合っていく。

しかし映画の結末は美談で終わることなく厳しい現実を突きつけていく。虚脱感や空虚感はいたたまれないが、それでも世界共通言語である音楽のチカラは一人の楽団員のかすかな小太鼓をキッカケに目をさまさせる。

"タン、タタタタンタン、タン、タタタタンタン"。ラヴェルの「ボレロ」の始まりである。

一人また一人とこの演奏に加わっていく様子はエモーショナルで、わかっていながら素直に感動するのだ。まさに「音楽の架け橋」である。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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