岐阜新聞 映画部

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藤井監督の辣腕ぶりが見事に発揮された恋愛映画の良作

2022年03月17日

余命10年

©2022映画「余命10年」製作委員会

【出演】小松菜奈、坂口健太郎、山田裕貴、奈緒、井口理/黒木華、田中哲司、原日出子、リリー・フランキー/松重豊
【監督】藤井道人

四季折々の楽しくも切ない時間が愛おしい

『余命10年』というタイトルを聞いて、観るのを尻込みした映画マニアは私だけではあるまい。お涙頂戴の難病ものとレッテルを貼って観る前に"終了!"としてしまうジャンルだが、なんと監督はインディーズの盟主で『新聞記者』の藤井道人さん。

初のメジャー作品だが、雇われ仕事として商業主義に堕すのか藤井色を出して孤塁を守るのか?

ハラハラしながら映画を観たが、その結果はプログラムピクチャーとしての要求に答えつつ、笑顔と涙が同居する豊潤で上質なラブロマンスに仕上がっていた。マイナーでもメジャーでも気負うことなく、それでいて妥協を許さない藤井監督の辣腕ぶりが見事に発揮された恋愛映画の良作である。

二十歳のときに肺と心臓を結ぶ血管がうまく機能しなくなる難病に罹った茉莉(小松菜奈)。10年以上生きた人は殆どいないと知るが、その10年を精一杯生きようとする彼女の姿は生きていることの素晴らしさを教えてくれる。

その相手役は、中学の時の影の薄かった同級生・和人(坂口健太郎)。生きる意味を失って、部屋から飛び降り大けがをする。

この対照的な人物像の描き方は一見月並みなようだが、茉莉の生きてきた証をリスペクトし、手を繋ぐまでにも時間のかかるじれったいほどの恋愛を暖かく見つめており、納得の純愛だ。

撮影は1年がかり。桜の下での花見、浴衣姿での花火大会、秋の紅葉やクリスマスパーティ、家族で囲むおせち。四季折々の楽しくも切ない時間が愛おしい。

時おりインサートされる病と闘う茉莉の孤独な姿には涙を禁じ得ないものの、それでも強く生きていこうとする彼女の振る舞いには、こちらが勇気をもらえるのだ。

印象的なのは桜の花弁が舞い散るシーン。全国で咲き誇るソメイヨシノは交配では種が出来ずすべて接ぎ木。同じ遺伝子なのでおなじタイミングで咲き誇り短い時間で散る。茉莉の人生のようだ。

後味の良い難病ものだ。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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