岐阜新聞 映画部

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旧作にリスペクトしつつ、単なるオマージュを遥かに超えた傑作

2022年02月16日

ウエスト・サイド・ストーリー

© 2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

【出演】アンセル・エルゴート、レイチェル・ゼグラー、アリアナ・デ・ボーズ、マイク・フェイスト、デビット・アルバレス、リタ・モレノ
【監督・製作】スティーブン・スピルバーグ

華麗なダンスから、自由でダイナミックで力強いダンスへ

漆黒のスクリーンに響き渡る口笛、続いてがれきを俯瞰する移動撮影、そしてスラムを撤去している工事現場にカメラは迫り、プロローグの音楽と共にジェッツ(白人系)とシャークス(プエルトリコ系)の縄張り争いが描き出される。

オープニングからすべての杞憂は吹き飛び、圧巻のミュージカルシーンがラストまで繰り広げられる。スピルバーグ監督による60年ぶりのリメイクは、旧作にリスペクトしつつ、単なるオマージュを遥かに超えた、まさに現代に息づく「ウエスト・サイド・ストーリー」になっている。

旧作にもあった人種間の隔たりは、シャークスにスペイン語圏の俳優を多く起用することでより際立たせ、ジェッツも富裕層から切り離されたプワホワイトとしての閉塞感を浮き上がらせる。

さらに旧作でジェッツに入りたかった男の子のような女の子は、本作では完全なトランスジェンダーのキャラクターとなり、その言動や行動が印象的に描かれる。

旧作の先進性も凄いが、本作では60年たったいまも変わらぬ、むしろ深刻化している人々の分断をさらに焦点化し、LGBTQを前面に出してきた。画期的である。

ソンドハイムの詞とバーンスタインの曲は何度聴いても聴き飽きることはないが、旧作でモダンバレイ的だった華麗なダンスは、本作では自由でダイナミックで力強いダンスとなり、またこれもいい。

旧作ではセットの中でのダンスが多かったが、本作は街中で踊るナンバーが多い。圧巻はシャークスの「アメリカ」で、女性たちのアメリカ賛美と男たちの現実の厳しさを歌う掛け合いは、街を行きかう人々も巻き込み、最後は大きな輪の中で踊る。見事である。

そして驚いたのは旧作でアニータを演じたリタ・モレノが、ジェッツの溜まり場の女店主で出ていたこと。御年90歳!。プエルトリコ人として、分断の仲介役となっているのだ。

旧作に負けず劣らず、本作も紛うことなき傑作である。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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