岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

孤独な博士が求めたもうひとりの僕との出会い

2022年02月09日

弟とアンドロイドと僕

© 2020「弟とアンドロイドと僕」FILM PARTNERS

【出演】豊川悦司/安藤政信、風祭ゆき、本田博太郎、片山友希、田村泰二郎、山本浩司/吉澤健
【脚本・監督】阪本順治

野暮は承知でも新境地にケチをつけたくなる

監督の阪本順治は、1989年、プロボクサーだった赤井英和主演のボクシング映画『どついたるねん』でデビューし、日本映画監督協会新人賞を受賞、ブルーリボン賞では作品賞に輝き、きわめて順調なスタートを飾った。その後も『鉄拳』(90)、『王手』(91)を発表。その力強い作風は、監督としても硬派のイメージとして定着した。

ロボット工学者で大学教授の桐生薫(豊川悦司)は、幼い頃から自分の存在に実感を持てないでいた。また、肉体的にも、右足は自分のものではないという強迫にかられていた。そして、人生は孤独だった。その不安を打ち消す方法は、自分そっくりな "もうひとりの僕" の創造だった。ひとり古い洋館にこもり、アンドロイドの製作に没頭する。

降り続く雨、怪しげな雰囲気を醸し出すビジュアルの造形は、物語の進展に期待を持たせるに十分な予感を感じさせる。それにしても、あのフランケンシュタイン博士然り、何故に天才は孤独なのだろう?

桐生のもとに、永く音信不通だった腹違いの弟(安藤政信)が訪ねて来る。そして、寝たきりになった父(吉澤健)のことを持ち出し、医療費の負担を無心してくる。危ういが平穏だった日常がざわつきだす。

阪本監督のオリジナル脚本は、主役・桐生の豊川悦司の配役による当て書きを感じさせ、人物像との格闘の跡がうかがえるが…。

傍若無人ぶりを増長させる弟。突然現れる少女。物語はその枝分かれとともに次第に混迷を極める。

阪本は前作である『一度も撃ってません』では、ハードボイルドコメディという新境地に挑戦している。成功とは言えないまでも、すかした展開には、らしさが見えていたが、同時に感じたのは迷いである。

『弟とアンドロイドと僕』でも再び、クールな映像世界を展開し、観念と感覚に彷徨う世界観を創造している。しかし、そこにあるのは、なんともし難い違和感でしかない。

冒頭でも指摘したが、阪本映画に好感を感じたのは、直線的で力強い描写や主人公たちの生き様だったのではないか…。

作家の創作の格闘を否定するつもりはないが、野暮な指摘をしなければならないのは残念でならない。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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