岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

正義の曖昧さと人と人の信頼関係を描く傑作

2022年02月14日

スティルウォーター

© 2021 Focus Features, LLC.

【出演】マット・デイモン、アビゲイル・ブレスリン、カミーユ・コッタン、リル・シャウバウ、イディル・アズーリ ほか
【監督・脚本】トム・マッカーシー

信頼を裏切る行為が払う大きな代償に胸痛む

アカデミー賞作品賞受賞作「スポットライト 世紀のスクープ」のトム・マッカーシー監督がメガホンをとった「スティルウォーター」は、アメリカのオクラホマ州スティルウォーター出身の主人公ビル(マット・デイモン)が、言葉の通じない異国フランスのマルセイユで、娘の冤罪を証明するため奔走する姿を描いた作品ですが、事件の真相以上に人間ドラマとして深みがあり、それぞれの立場によって異なる正義の曖昧さや人と人の信頼関係を描いた傑作です。

ビルは「空白」で古田新太が演じた主人公と、娘との関係に於いて類似した父親です。勿論性格はまったく似ていないし、奥さんと死別と離婚の違いはありますが。ふたりとも、娘をまったく理解できていないけれど、愛情は人一倍あって、娘の無実を信じ、自分勝手な正義を振りかざして常軌を逸した行動に訴えます。

「スティルウォーター」で、正義の曖昧さ以上のウエートで描かれるのは人と人との信頼関係です。妻が自殺し、娘からの信頼も失ったビルが、異国で心通わせられる女性と出会い、彼女の幼い娘にも慕われ、家族のような団らんを得るに至るシークエンスはとても自然で説得力があります。ふたりがすぐに男女の関係にならずに、信頼関係を築いていく中で、愛情が芽生えていくのもリアリティーがあります。

だから、結婚生活で幸福な家庭を築けなかったビルがようやく手にした幸せを、自ら信頼を裏切る行為でぶち壊してしまう切なさに胸が痛みます。

これまでも様々な役を演じてきたマット・デイモンは、このアメリカ南部の肉体労働者の役をリアルかつ繊細に演じ、俳優としてまた一段と幅を広げる好演で作品を支えている。

語り手:井上 章

映画鑑賞歴44年。出来る限り映画館で観ることをモットーとし、日本映画も外国映画も、新作も旧作も、ジャンルを問わず観てきたおかげか、2006年に、最初の映画検定1級の試験に最高点で合格しました。

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語り手:井上 章

映画鑑賞歴44年。出来る限り映画館で観ることをモットーとし、日本映画も外国映画も、新作も旧作も、ジャンルを問わず観てきたおかげか、2006年に、最初の映画検定1級の試験に最高点で合格しました。

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