岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

裏社会で生きる声を上げられない人たちの物語

2022年02月07日

声もなく

© 2020 ACEMAKER MOVIEWORKS & LEWIS PICTURES & BROEDMACHINE & BROCCOLI PICTURES. All Rights Reserved.

【出演】ユ・アイン、ユ・ジェミョン、ムン・スンア
【監督・脚本】ホン・ウィジョン

映画のつくりは上等なのに詰め込み過ぎは禁物

チャンボク(ユ・ジェミョン)とテイン(ユ・アイン)は、鶏卵の移動販売をしている。軽トラックに群がる常連客を手際よく捌く様子からは、年齢差があるわりには良好な関係がうかがえる。

チャンボクは少し足を引きずって歩く障害があり、テインは声を発することができない。

そして、ふたりにはもうひとつの別の仕事が存在した。

アジトで待ち受けているのは裏社会の "筋もの" で、急かされつつも、手慣れた様子で準備を整える。倉庫のような殺風景なそこには、縛られ天井から吊るされた男がいた。

ふたりが請け負っているのは "後始末" 。依頼主との関係にはけっして逆らえない強固な力関係が存在した。そしてもうひとつ、厄介な仕事を押しつけられることになる。

『声もなく』は韓国映画によく登場する裏社会ものだが、焦点はその更なる裏側、地べたを這いずることを強いられて生きる者たちに当たる。

監督は82年生まれのホン・ウィジョンで、本作が長編第1作となる。日本でも一昨年公開された『はちどり』のキム・ボラ監督に続く、若手女流監督と期待されている。

新たな仕事は、誘拐した子どもを1日だけ預かるというものだった。チャンボクは専門から外れる "生きた人間" には関わりたくなかったが、断る選択肢などあるはずもなく、渋々ながら子どもの受取りに向かうのだった。

身代金目的で誘拐された11歳の少女チョヒ(ムン・スンア)は、支払いを渋る親と犯人の駆け引きに翻弄された不幸な運命を引きずる。それを押し受けられたチャンボクたちにも負の連鎖が感染するのだった。

チョヒとテインとその妹の奇妙な構成の家族まがいの暮らしは、次第に心温まる関係に変化していく。血生臭い描写を幾分抑え、世界の片隅のような田園の村の美しい夕焼けの風景を対照的に浮かび上がらせる。その細やかな演出は新人らしからぬ手腕を感じさせる。演技陣も素晴らしく、特に、ユ・アインの台詞なき熱演は圧巻。それ故、終盤の展開のやり過ぎで破綻が生じるのがなんとも惜しまれる。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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