岐阜新聞 映画部

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阪本順治監督が哲学的問題と向き合った、孤独を描く映画

2022年02月08日

弟とアンドロイドと僕

© 2020「弟とアンドロイドと僕」FILM PARTNERS

【出演】豊川悦司/安藤政信、風祭ゆき、本田博太郎、片山友希、田村泰二郎、山本浩司/吉澤健
【脚本・監督】阪本順治

桐生薫は、離人症で身体完全同一性障害かもしれない

『弟とアンドロイドと僕』という掴みどころのないタイトル。主人公は元産婦人科医院だった洋館に一人で住み、自分とそっくりのアンドロイドの製作に没頭している工学博士。何故か大学の講義では、左足だけでケンケン跳びをして歩く。

『どついたるねん』でデビューした阪本順治監督は、私と同じ1958年生まれ。キネマ旬報ベストテンに11回ランクイン(うち『顔』でベストワン)するほどの大監督で、同じ世代の空気感を共有してきた同級生だ。常に意識し注目してきた。

全作品を観ているが、今回の作品ほど難解なものはない。60を超えて未だにこういう哲学的な問題に向き合うとは、さすが世代の代表選手である。

常に孤独で、というより外部からのコミュニケーションを自ら拒絶し孤立を好んでいるロボット工学者・桐生薫/僕(豊川悦司)。彼は子どもの頃から自分が存在している実感を抱けないまま生きてきた。

そんな彼のところに、ずっと会っていなかった父親の腹違いの弟/山下求(安藤政信)が訪ねてくる。父は寝たきりで、医療費を負担してくれとの頼みである。

私から見ると桐生薫は、解離性障害の一種の典型的な"離人症"だと思われる。「自分自身の存在の確かさが感じられない」という空虚感が代表的症状で、彼はまさにこれに当てはまるのだ。

さらに左足だけでケンケン跳びをするのは、右足が自分のものだと思えず不快な異物と感じてしまう「身体完全同一性障害」なのであろう。

桐生薫が自分の存在を確かめるために、もう一人の自分/アンドロイドを作るというのは映画ならではの設定であるが、後半物語が動いていくに従って荒唐無稽さが際立ってきてしまう。

廃墟の様な病院や降りやまぬ雨は、ビジュアル的には映画の内容に馴染んではいるが、若干思わせぶりで独り善がりっぽいのは残念だ。

でもあまり世間に知られてない障害を映画で観ることが出来、勉強になりました。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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