岐阜新聞 映画部

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50年ぶりに登場した伝説の美少年の、美しすぎたゆえの悲劇

2022年01月31日

世界で一番美しい少年

© Mantaray Film AB, Sveriges Television AB, ZDF/ARTE, Jonas Gardell Produktion, 2021

【出演】ビョルン・アンドレセン
【監督】クリスティーナ・リンドストロム & クリスティアン・ペトリ

ビョルンの戸惑いと恥ずかしそうな姿が痛々しい

1912年に発表されたトーマス・マンの小説「ヴェニスに死す」で、アッシェンバッハを虜にした美少年タッジオの容姿は、「蒼白で、上品に表情のとぎれた顔、蜜いろの巻き毛にとりまかれた顔、まっすぐにとおった鼻と可愛い口をもった顔、やさしい神々しいまじめさを浮かべている顔ー彼の顔は、最も高貴な時代にできたギリシャの彫像を思わせた。」と書かれている。

果たしてそんな絶世の美少年が存在するのか?

それがいたのである。

ルキノ・ヴィスコンティ監督の『ベニスに死す』(1971)で、タッジオに抜擢されたビョルン・アンドレセンの容姿は完璧であり、彼の耽美的で創造を超えた美しさ無くしては映画の製作がなし得なかったし、ましてや傑作とはならなかっただろう。

大人になる直前の一瞬の輝き。その瞬間だけ存在したような伝説の『世界で一番美しい少年』は、50年ぶりに、我々の前に登場した。

本作では、本物の美少年を求めて、ヨーロッパ中を駆け回るヴィスコンティの前に忽然と現れた、ひょろりと背が高くブロンド髪で切れ長の眼差しのビョルンに対し、ヴィスコンティが一瞬で惚れてしまう表情が見て取れる。あらゆる角度で撮影した後、「じゃあ上半身、裸になって」と言われた時の、ビョルンの戸惑いと恥ずかしそうな姿が痛々しい。

映画は、60代半ばになったビョルンの現在の姿を中心に、父が誰とも知らず、母も若くして亡くなり祖母に育てられた少年時代から、『ベニスに死す』のオーディションでの様子、撮影風景、その後のワールドプレミアやカンヌ映画祭での映像、来日時の熱狂などが映し出される。

自分の意志とは関係なしに、大人たちの様々な思惑や都合によって翻弄され苦悩した姿を、生々しい証言と映像であぶり出す。美しすぎたゆえの悲劇である。

しかし私は、一時は死亡説も流れたビョルンが、生きていただけでも感動した。彼の今後の活躍を祈っている。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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