岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

リアルな現状を描いた社会派ドラマ

2022年01月25日

ファイター、北からの挑戦者

©2020 Haegrimm Pictures All Rights Reserved

【出演】イム・ソンミ、オ・グァンロク、ペク・ソビン
【監督】ユン・ジェホ

ボクシングは、あくまでも人生を取り戻していく手段

韓国で脱北者の統計を公表し始めたのは1993年でその年は8人。1999年以降急増し始め、2002年からは年間1,000人規模、2009年のピーク時には2,914人にまでなった。最初は軍事境界線を突破する軍人が多かったが、その後は留学生、外交官、貿易従事者、高級官僚など中流階級以上が多くなった。彼らはブローカーに多額の費用を払い、中国やロシアなどを経由して、韓国やアメリカなどへ脱出してきた。

ただ2011年12月の金正恩政権誕生以降は、中国との国境の監視体制が強化されて次第に減少し始め、特に2021年はコロナの影響もあり100人を切っている。

本作は、北朝鮮から脱北し、韓国で希望に満ちた新生活が始まるのだと信じて疑わなかったジナ(イム・ソンミ)が、北朝鮮訛りの言葉を使う野蛮人として差別・嘲笑をされる中、多くの困難に立ち向かうリアルな現状を描いた社会派ドラマだ。

彼女は、経由地の中国に残った父を呼び寄せるのに必要な費用を稼ぐため、ダブルワークを始める。紹介された先は小さなボクシングジムで、そこの清掃を任される。

そこで才能を見出されたジナは、女性ボクサーとしてのし上がっていく・・・という話にはならない。ボクシングはあくまでも人生を取り戻していく手段にすぎない。

話は、家族を捨てて先に韓国に脱北してきた母親との、べたな親子ものになっていく。泣かせの展開はあざとい上にわざとらしく、私の涙腺はいっこうに緩まない。

『Fighter』という原題なのに、ファイトシーンは少なく、あってもパンチの力強さはほとんど感じられず、身のかわし方にスピードはない。

無いものねだりは承知の上で、ボクシングをもっと主軸に据え、その中から脱北者の現状を描いて欲しかった。そして「格差社会の韓国は、必ずしもバラ色ではなかったのだ。」とあぶり出してもらいたかった。

悪い映画ではないだけに残念だ。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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