岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

アメリカの民主主義の神髄が、垣間見られるドキュメンタリー

2022年01月24日

ボストン市庁舎

© 2020 Puritan Films, LLC – All Rights Reserved

【監督・製作・編集・録音】フレデリック・ワイズマン

みんなで見てみんなで語りたい映画

2021年11月、ボストン市長選で台湾系のミシェル・ウー氏(民主党)が当選した。人口50万人以上の大都市では初めての東アジア系女性市長となった。

ボストンのあるマサチューセッツ州はブルーステートと呼ばれる民主党の牙城で、政治的にも宗教的にもリベラルな傾向の人が多く、黒人や移民などのマイノリティの人々も多い地域だ。

フレデリック・ワイズマン監督の最新作『ボストン市庁舎』は、2018年秋から翌年冬に撮影された。当時はウォルシュ市長(民主党)で、ワイズマン映画では珍しく、著名な人物の彼が意識的に取り上げられる。これは排他的で不寛容、民主主義の敵ともいえる当時のトランプ大統領の対極に位置づけるためであろう。

アメリカでは市町村などの基礎自治体は、住民の総意によって設立される。決議がなければ自治体はなく、総人口の38%は非法人地域に住んでいる。そのためか所属する自治体に対する期待は大きいのだろう。

本作でも、予算編成や住居問題をはじめ、同性カップルの婚姻承認や、レッドソックスの祝賀パレードの警備まで、至れり尽くせりの行政サービスが行われている様子が描かれている。

映画のハイライトは、前半の退役軍人の講演会や日々の活動、後半の大麻ショップの開店に伴う住民説明会だ。アメリカの民主主義の神髄が垣間見られて、スリリングでもあった。

4時間32分の大長編ではあるが、優れた交響曲のように、いくつかの主題が様々な形で提示されながら、次第にテーマを浮かび上がらせていく構成力にはうなるしかない。

一切のやらせも作為も演出も無く、ただその場を写し取っただけなのに、被写体となっている人たちがまるで役者に見えてくる。人間の面白味が、画面からほとばしり出ている。

行政機関の意思決定のプロセス、地域住民や利害関係者との折衝なども、すこぶる面白い。

みんなで見てみんなで語りたい映画だ。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

観てみたい

100%
  • 観たい! (9)
  • 検討する (0)

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

ページトップへ戻る