岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

会話の応酬が素晴らしい、3話構成のオムニバス映画

2021年12月22日

偶然と想像

©︎ 2021 NEOPA / Fictive

【出演】(第1話)古川琴音、中島歩、玄理/(第2話)渋川清彦、森郁月、甲斐翔真/(第3話)占部房子、河井青葉
【監督】濱口竜介

人生の大半は偶然から動き出す

濱口竜介監督の作品づくりには独特のスタイルがある。それは「濱口メソッド」といわれる、本番前に徹底的に本読みの時間をかける演出方法だ。

出演俳優は「感情を込めてはいけない」というルールのもと、棒読みで全員のセリフが完全に記憶されるまで何度も繰り返し本読みをする。そうすると本番では、作為的なものが徹底して削ぎ落され無意識な芝居ができるようになる。

『偶然と想像』は、第1話・3人、第2話・3人、第3話・2人によるオムニバスの会話劇である。

口跡がはっきりし語尾まで聞き取れるセリフは、相手に被さることなく会話の応酬が続き、一瞬たりとも聞き逃せられない。濱口作品の特徴である長回しの撮影は、俳優のセリフのつかえや言い直しもそのまま使っており、かえってリアリティが増してくる。

ほとんどのシーンはセリフのみでBGMは無いが、要所要所に流れるシューマンのピアノ曲集《子供の情景》の美しく穏やかな旋律は、張り詰めた緊張感を解放してくれる。ここら辺の濱口監督のさじ加減は絶妙である。

第1話の親友の元カレと今カレが同じだったという偶然、第2話の落第させられた学生と年上の彼女に関係ある大学教授が同じだった偶然、第3話の久しぶりに会った高校時代の知り合いだとお互い勘違いした偶然。

人生の大半は偶然によって生まれる。ほとんどは通り過ぎていくが、ふと偶然立ち止まったとき、新しい人生の始まりとなるかもしれない。どう対応していくかが人生を楽しむ術なのだと映画は教えてくれる。ひとつひとつのエピソードはスリリングで面白く濃厚な会話が続く。ことさら劇的な事がおこるワケではなく、チェーホフの戯曲のように日常の風景が綴られる。

エリック・ロメールとの類似性に言及した批評が散見されるが、私は会話劇の名手・山田太一を想起した。私が最も敬愛する脚本家であり、濱口監督のセリフ回しは山田を彷彿とさせる。傑作である。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

観てみたい

100%
  • 観たい! (7)
  • 検討する (0)

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

ページトップへ戻る