岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

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少女がソーホーの夜で見たもの

2021年12月30日

ラストナイト・イン・ソーホー

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【出演】トーマシン・マッケンジー、アニャ・テイラー=ジョイ、マット・スミス、テレンス・スタンプ、マイケル・アジャオ ほか
【監督】エドガー・ライト

後半は腰砕けでB級映画に転落

監督エドガー・ライトは前作の「ベイビー・ドライバー」(2017)が良かったので期待するところはあったが、後半の展開が腰砕けで不満が残る。映画は思い付きやアイデアだけで完成するのでなく、全体の骨格となるシナリオの出来が最後に物を言う。21世紀のロンドンを生きる少女を描くのなら、主人公にもう少し精神的な強さが欲しかった。田舎からファッションを学ぶため出てきたエロイーズ(トーマシン・マッケンジー)は夜のソーホーを探検するうち、自分の分身となるサンディ(アニャ・テイラー=ジョイ)を鏡の中に発見する。彼女は60年代を生きた少女だった。映画の前半は鏡を使った演出やダンスシーンで二人が一人のように入れ替わるカットが目を奪う。出だしは好調なものの、中盤以降の展開でエロイーズが亡霊を見たりして、精神が錯乱していく様が陳腐なのだ。

   すぐさま思い浮かぶのがポランスキーの「反撥」(1965)。60年代の俳優、リタ・トゥシンハム、ダイアナ・リグ、テレンス・スタンプなどの配役は素晴らしい。当時のヒット曲も効果的だが、いかんせんストーリー展開が平凡というか、腰砕け。亡霊たちはゾンビにしか見えず、B級スリラーに堕してしまった。

60年代のサンディはミソジニーと男性優位の社会に翻弄されたかもしれないが、21世紀のエロイーズはもう少し強くあってほしかった。彼女を親身になって助けようとする黒人青年の役柄など既視感でいっぱいだ。男性目線の監督の限界だったのかもしれない。

語り手:シネマトグラフ

外資系資産運用会社に勤務。古今東西の新旧名画を追いかけている。トリュフォー、リヴェット、ロメールなどのフランス映画が好み。日本映画では溝口と成瀬。タイムスリップして彼らの消失したフィルムを全て見たい。

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語り手:シネマトグラフ

外資系資産運用会社に勤務。古今東西の新旧名画を追いかけている。トリュフォー、リヴェット、ロメールなどのフランス映画が好み。日本映画では溝口と成瀬。タイムスリップして彼らの消失したフィルムを全て見たい。

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