奇想天外な、でも半分事実な物語。笑ってばかりではいられない。
2021年12月14日
皮膚を売った男
© 2020 – TANIT FILMS – CINETELEFILMS – TWENTY TWENTY VISION – KWASSA FILMS – LAIKA FILM & TELEVISION – METAFORA PRODUCTIONS - FILM I VAST - ISTIQLAL FILMS - A.R.T - VOO & BE TV
【出演】モニカ・ベルッチ、ヤヤ・マヘイニ、ディア・リアン、ケーン・デ・ボーウ、ヴィム・デルボア
【監督】カウテール・ベン・ハニア
憧れの「自由」と優雅な生活を手に入れた代償は?
私にとっての刺青のイメージは、花田秀次郎(高倉健)が殴り込みをかける時にみせる"唐獅子牡丹"とか、遠山の金さんがしらばっくれる悪党に「この桜吹雪に見覚えがねぇとは言わせねぇぜ!」と見せつける"桜吹雪"だ。
一流の彫師によるタトゥーは芸術品としての価値が相当高いとは思うが、まさか生身の人間の背中に彫られた作品が美術館で展示?されたり、ましてやオークションで競売にかけられ高値で取引されるなんて想像もしていなかった。
本作はそんな冗談のような事実を基に、シリア難民や人権問題、美術商取引の欺瞞などを風刺や皮肉たっぷりに描きながら「自由」の意味について問うた、"Based on a True Story" (事実に基づく物語).だ。
まずサム(ヤヤ・マヘイニ)の背中に彫られた文字「VISA」が皮肉たっぷりだ。この「シェンゲンVISA」は、ヨーロッパ各国を6カ月間で90日以内の滞在であれば、自由に往来できるというもの。出国もままならなかったシリア難民が「移動の自由」を背負っているのが何とも可笑しい。
サムの背中は展示品、背中を引き剥がすわけにもいかず、そのおかげで憧れの「自由」と優雅な生活を手に入れた。でも美術展の最中は美術館の中でじっとしていなければならない。これが仕事と割り切れるか、悪魔に魂を売ったと考えるかは、まあどっちとも言えるだろう。
それにしても、芸術品とはいえ生きた人間に値がつくなんて人身売買そのものだが、美術商取引には酔狂な金持ちもいるものだ。格差社会を象徴していて、笑ってばかりではいられないが。
ラストのオチも皮肉に満ちていて、カウテール・ベン・ハニア監督のしたり顔が目に浮かぶ。映画初出演のヤヤ・マヘイニも、人間の本質に迫る演技を飄々とみせて唸らせる。
奇想天外な、でも半分事実な物語。ユーモアたっぷりでシニカルで、ウィットに富んだ映画である。
語り手:ドラゴン美多
中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。
語り手:ドラゴン美多
中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。